紙パ技協誌
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新入社員歓迎号
日本製紙グループにおける生物多様性への取り組み
渡邊 惠子
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2013 年 67 巻 4 号 p. 349-353

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抄録

生物多様性とは,「地球上に多様な生物が存在し,それらが支えあってバランスを保っている状態」のことである。人類の活動は生物多様性が基盤となって生み出される生態系サービスに支えられているが,年間約4万種の生物種が絶滅し,生態系サービスが急速に劣化していることが大きな問題となっている。
日本製紙グループは,森林資源を活用して建材,紙・板紙,化成品を社会に提供する生物多様性とかかわりの深い企業であり,森林を失うことは事業基盤の喪失につながる。企業活動が生態系サービスに支えられている一方で,生態系に多くの影響を与えていることを認識し,生物多様性の保全に対して「本業を通した取り組み」と「自社の資源や技術を活かす取り組み」を両軸とした活動を進めている。
「本業を通した取り組み」では,森林認証制度を持続可能な森林経営の指標のひとつとして用い,社内外における持続可能な原材料調達を実現している。また,海外の植林事業会社では,生物生息調査や近隣コミュニティに対して野生動物保護や防火に関する啓発活動を行うことで,産業植林事業と生物多様性の保全の両立に取り組んでいる。一方,「自社の資源や技術を活かす取り組み」では,国内社有林の一部を商業的な木材生産を行わない「環境林分」と定め,絶滅危惧種であるシマフクロウの保護活動や環境教育の場として活用している。また,製紙用ユーカリを効率的に増殖させるために開発した独自の発根技術を応用し,日本各地の桜の名木や琉球列島の絶滅危惧植物の増殖に取り組むことによって,種の多様性の保全を試みている。
日本製紙グループでは,今後も生物多様性を環境保全と経済成長の調和を目指すものと位置づけ,サプライチェーン全体での生物多様性への配慮について,様々なステークホルダーとコミュニケーション,連携を図りながら強化していきたいと考えている。

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© 2013 紙パルプ技術協会
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