製紙産業は,19世紀後半から古紙を利用する板紙を開発することで,その規模を倍に成長させた。その過程をシリーズで追いかけてみる。
産業革命以前では,紙は,その生産には多大な労力を要し,貴重な商品であった。その紙が書類・書籍として使用され後の扱いが世界各地で異なっていた。
日本では手紙を漉き返してお経を書いたのが最初の記録とされているが(886年),平安時代から,文書を回収して抄きなおして,文章を記す紙として再生することが普通的で,京都や後の江戸で産業として行われた。再生紙は,薄墨紙,漉返紙,色紙,宿紙などと呼ばれ,江戸では浅草紙(トイレットペーパー)も生産された。
一方,ヨーロッパでは再生紙は生産されず,もっぱら張り合わせてpaste boardとして本の表紙等に使用された。恐らく,これで古紙の需給がバランスしていたのであろう。中国では,宋代に再生紙の使用が記録されているようであるが,日本ほど普遍的でなかったようで,代わりに多くの紙製品に使われたと推測する。
1800年以後になると社会が大きく変貌し,新興製紙国のアメリカが板紙を開発し,古紙の利用を激変させた。