セルロースナノファイバー(以下,CNF)はセルロースの分子鎖が規則的に配列した高結晶性のミクロフィブリルであり,軽量・高強度・高弾性率・低線熱膨張係数・大比表面積等の特長を有する。これらの特長から,CNFをシート状に加工し,フレキシブルデバイス等,各種の用途に利用することが提案されている。しかしながら,これまでにCNFシートの製造をラボ設備以上の規模で確立した例は無く,製造における課題は多い。筆者らは,当社の独自技術である,リン酸エステル化による3–4nm幅のCNFの製造技術,およびCNFのシート化技術を活かし,2017年度の後半にCNFシートの生産設備を導入した。同設備において連続生産されるCNFシート「アウロ・ヴェールTM」は,光学フィルム並みの透明性に加え,高強度/高弾性,フレキシブル性,低熱膨張性といった特長を有する。この他,上記の特長に加えて成形加工時に割れず,自由に成形加工できるという特長を持つシート「アウロ・ヴェール3DTM」や,CNFシートの最大の弱点である耐水性の不足を克服したシート「アウロ・ヴェールWPTM」も製造可能である。当社は,これらのCNFシートの用途開発をさらに加速していく。
当社は木質バイオマスを利用した新規事業への展開を目指した様々な開発を進めており,その中でもセルロースナノファイバー(CNF)の製造およびその用途開発に注力している。これまでに様々なタイプのCNFの実用化に取組んできており,石巻工場では均一ナノ分散を特徴としたTEMPO酸化CNF,また江津工場ではCMC製造技術を応用したCM化CNFの量産設備を稼働させ,さらに富士工場では汎用樹脂と複合化したCNF強化樹脂の実証設備を設置して量産化の検証を進めている。CNFは結晶化度の高い素材であり,高強度・高弾性,低い線熱膨張率などの優れた特長を発現する。また,ナノ繊維としてその大きな比表面積に基づく触媒・吸着など特殊な表面機能,高い分離機能やバリア性,構造粘性に基づく特異的な流動特性などを様々な機能を発現することが知られており,これらの機能を活かして幅広い用途で開発を進めている。
TEMPO酸化CNFは,表面に高密度に分布するカルボキシ基に金属イオンやイオン性有機物をイオン結合等によって表面改質が比較的容易である。例えば銀イオン等を担持することで抗菌・消臭を付与し,抗菌・消臭効果を高めた紙おむつに利用して商品化した。また,CM化CNFはCMCと同様に食品添加剤としての利用が可能で,主に分散剤や増粘剤での利用を進めている。チキソトロピー性を示し,熱による粘度の変化が小さいなど従来のCNCにはない特長を有しており,食品や化粧品で多数採用されている。CNF強化樹脂についてはまだ開発レベルであるが,ポリプロピレンやナイロンなどと複合化することで強度(引張,曲げ)や熱変形温度が向上する結果が得られ,射出成形性が良好で微細な形状の成形も可能との評価も受けている。しかし,樹脂補強材として炭素繊維,アラミド繊維,ガラス繊維など既存材料が多く利用されており,実用化を達成するためには低コスト化は勿論のこと,軽量化や強度向上以外のCNF特有の機能を見出す必要がある。
中越パルプ工業(以下当社)では,物理的手法の一つである九州大学大学院の近藤哲男教授が考案した水中カウンターコリジョン(Aqueous Counter Collision=ACC)法を用いたセルロースナノファイバー(CNF)「商品名:nanoforest(ナノフォレスト)」を製造している。nanoforestは,極微小なサイズを意味する「nano(ナノ)」と,天然の森林を意味する「forest(フォレスト)」を組み合わせてネーミングした。天然のナノ素材として注目が高まっているCNFは,軽量,高強度,高弾性率,低線熱膨張といった優れた特性を有することで,様々な素材の特性を向上させることが期待できる。この製造法は,衝突圧や衝突回数も制御が可能である。また水のみで素材を微細化するため安全性の高い試料を得ることができる。
また,この製造法で得たnanoforestは,親水性に加え疎水性サイトを持つユニークなCNF,すなわち両親媒性を持ったCNFである。
当社は,2017年6月に,鹿児島県薩摩川内市の川内工場にセルロースナノファイバープラントを稼働させ,同年9月に樹脂化工程プラントを稼働させている。水溶性nanoforestをnanoforest–S,樹脂に分散しやすいnanoforest乾燥粉末をnanoforest–PDPとして製造している。研究開発品としては,nanoforest–Sの表面化学修飾を実施した疎水性nanoforest(nanoforest–M)や樹脂を併用しないnanoforestのみからなる3次元成型体,nanoforestを漆に複合した高機能素材開発等に取り組んでいる。
本稿では当社変性CNF配合樹脂「STARCELⓇ」の特長,並びに成形加工(射出成型,化学発泡成形,ゴム)への応用事例について紹介する。STARCELⓇとは,変性CNFを熱可塑性樹脂に配合したマスタバッチペレットである。変性CNF配合量は20–50%の範囲であり,現在のベース樹脂はLLDPE(低密度ポリエチレン)とホモPPの2種類である。
STARCELⓇの最大の特徴は,予めナノ繊維を調製するのではなく,木材パルプなどの植物繊維を化学変性した後,樹脂と溶融混練する際に樹脂中でナノオーダーへの解繊とナノ分散を同時に達成することを特徴とする「京都プロセス」を採用したことである。STARCELⓇはガラス繊維のような他の補強材と比べて射出成型しやすい特徴があり,変性CNF濃度25%程度であれば,射出圧を若干高めることでベース樹脂と同等の射出性を示す。化学発泡成形体に適用した場合,変性CNFを6%添加することでブランクに対してクッション性を損なうことなく3~4割の軽量化が期待できる。EPDMに適用した場合,カーボンブラックに比べて1/10の添加率で同等の貯蔵弾性率が得られ,燃費に関連する指標であるtan δは4割減となった。
日本国内の森林は,戦後に植林されたスギやヒノキなどの人工造成林が木材として利用可能な段階を迎えており,日本製紙が九州地区に所有する約1万8千ヘクタールの社有林も同様に伐期を迎えた森林が年々増えている。こうした状況の下,当社では再造林の際,従来の種苗より成長に優れ,花粉量が少ないなどの特徴を持つスギ特定母樹を積極的に導入することとしている。スギ特定母樹とは「森林の間伐等の実施に関する特別処置法の一部を改正する法律(間伐等特措法)」に基づき,森林のCO2吸収固定能力の向上のため,農林水産大臣により指定されたものである。しかし,スギ特定母樹の苗木は普及が十分に進んでいないため,当社がこれまで培った海外植林技術を活用して,スギ特定母樹の効率的な挿し木生産技術を開発し,大規模な採穂園の造成,早期増殖の取組みを開始した。日本製紙八代工場(熊本県八代市)が熊本県人吉市に所有する土地に,独自技術を用いて増殖に取組んだスギ特定母樹824本を植栽した。今後順次拡大を図りながら,2019年までに1万4千本の採穂園を造成する。今後は,熊本県内の種苗生産者の協力を得て,2023年からは年間約28万本の挿し木苗を生産していく。また,需要動向に応じた増産,積極的な外販を進めることにより,社有林に限らない九州地区における苗木の安定供給,植林木の確実な更新にも寄与していく。
地球温暖化対策として再生可能エネルギーへの期待が高まっている中,世界に目を向けると,2015年に新たに建設された発電設備に占める再生可能エネルギーの比率が5割を超えるなど,急速にその導入が進んでいる。日本でも再生可能エネルギー固定価格買取制度が導入され,再生可能エネルギーの電源構成に占める割合は10.8%(2011年度)から15.3%(2016年度)まで上昇している。しかしその内訳に目を向けると,海外では風力が先導して再生可能エネルギーの導入が進められているのに対し,国内では固定価格買取制度開始後の導入量の約90%が太陽光であり,太陽光主導で再生可能エネルギーの導入が進んできた。また,海外での風力や太陽光の発電コストが10円を下回っているのに対し,固定価格買取制度の買取単価は,風力も太陽光も20円を下回るレベルとなっており,海外と日本の違いも現れている。
そのような状況の中,日本製紙株式会社として初となる風力発電事業を秋田工場の隣接地で立ち上げ,2018年1月から営業運転を開始している。国内でも有数の好風況地である秋田県沿岸部において,General Electric社製の最新鋭の大型風車を導入しており,発電能力は風車3基合計で7,485kWとなる。
化学工学の分野で塗布は重要な要素技術であり,日本の産業界ではVOF法を用いた塗布ビードの自由表面解析が盛んに行われてきた。この解析手法にて,空気同伴,リビング,リビュレット,段ムラ,塗布エッジ膜厚不均一等の各種塗布故障が解析結果として再現された。また,これら塗布故障の発生状況と塗布条件の相関を定量的に整理したコーティングウィンドウにおいても,実際の塗布試験結果と良好な一致が見られた。このように,塗布解析を活用した塗布故障発生原理の解明,未知の操業条件における塗布故障発生予測が実用化され,近年では主に電子材料分野の塗布最適設計に役立っている。現状この分野では,スロット塗布方式による単層塗布が一般的だが,多層同時塗布技術の応用も期待されている。
他方,製紙業界の分野では,流体構造連成解析によってブレード塗工挙動を表現し,ブレードの塗工膜を形成する挙動が再現されたが,ここでは紙基材への染み込みまでは考慮しきれていない。但し,印刷プロセス解析では,染み込みモデルによってポーラスな紙面へ液体が染み込む挙動が既に再現されており,ブレード塗工との同時考慮が今後の課題である。今回はスロット塗布による液の紙基材への染み込みの検討を進めた。
製紙産業は,19世紀後半から古紙を利用する板紙を開発することで,その規模を倍に成長させた。その過程をシリーズで追いかけてみる。
産業革命以前では,紙は,その生産には多大な労力を要し,貴重な商品であった。その紙が書類・書籍として使用され後の扱いが世界各地で異なっていた。
日本では手紙を漉き返してお経を書いたのが最初の記録とされているが(886年),平安時代から,文書を回収して抄きなおして,文章を記す紙として再生することが普通的で,京都や後の江戸で産業として行われた。再生紙は,薄墨紙,漉返紙,色紙,宿紙などと呼ばれ,江戸では浅草紙(トイレットペーパー)も生産された。
一方,ヨーロッパでは再生紙は生産されず,もっぱら張り合わせてpaste boardとして本の表紙等に使用された。恐らく,これで古紙の需給がバランスしていたのであろう。中国では,宋代に再生紙の使用が記録されているようであるが,日本ほど普遍的でなかったようで,代わりに多くの紙製品に使われたと推測する。
1800年以後になると社会が大きく変貌し,新興製紙国のアメリカが板紙を開発し,古紙の利用を激変させた。