紙パ技協誌
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総説・資料
紙が演出した文明史上の交代劇
第10部 ヨーロッパへ渡った紙
飯田 清昭
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2021 年 75 巻 11 号 p. 1010-1016

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抄録

イスラムが8世紀に紙を手にし,統治の手段として活用,さらに,それまでの文明を記録・保存,指数級数的に紙の使用量を増やした。中心地のCairoでは製紙産業が隆盛を誇り,book marketが栄えた。

一方,ヨーロッパは,ローマ帝国が崩壊(372–410年)後,異民族の侵入,人口減少,交易の衰退,移民の増加が続いた。しかし,10世紀には反転し,大幅な人口増,経済成長により科学と哲学の復興が始まった。その頃からヨーロッパで紙の歴史が始まる。1100年代にスペイン(イスラム),シシリーでは紙が生産されていた。1000-1300年にかけて,ヨーロッパの各地で紙の使用例が見つけられている。13世紀にイタリアで製紙工場が生まれる。その技術がアルプスを越えたドイツで広がり,さらに英国まで渡る。

この時代,ヨーロパは,イスラムに対して鉱山開発と金属加工に優れていた。その技術による金網を張った手漉きモルド,金属カバーのstamperを開発,さらに,ゼラチン含浸を含め,製造コストを削減したイタリアが,香料や絹との交換貿易の商品としてアラブへ売り込んだ。18世紀には,Cairoはヨーロッパの紙のアラブへの中継基地に過ぎなくなり,bookmakingも衰えていった。

一方,ヨーロッパでは,経済の拡大,文明の復興等から,紙の需要が増加,さらに,複写需要から15世紀に金属活字による印刷システムを開発した。その後,紙と印刷システムはヨーロッパの社会革命の原動力となっていく。

併せて,ヨーロッパにおける紙の生産技術を概説する。

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