紙パ技協誌
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日本の焼物文化について
加藤 舜陶
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1996 年 50 巻 6 号 p. 889-897

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抄録

日本は焼き物の非常に優れた国である。その歴史をみると8世紀以降, 大体400年周期に焼物の大きな変革がある。即ち, 6世紀から8世紀は中国の唐の文化が朝鮮に伝わり, 朝鮮で須恵器が盛んに焼かれた。この焼き物は, 8世紀頃, 仏教の伝来とともに日本に伝わり, ろくろ (轆轤) の技術が発達した。非常に薄くて堅牢でシャープなろくろの遠心の美を備えた名品が作られ, 今日のろくろ芸術の手本になっている。次の12世紀は, 中国の天目茶碗の釉 (うわぐすり) をかけた焼き物技術が伝わり, 瀬戸焼が誕生。さらに, 常滑 (とこなべ), 信楽 (しがらき), 越前, 丹波, 備前の6古窯と呼ぶ6か所の窯で日本独自の焼き物が沢山焼かれる。続いて, 16世紀は鎌倉時代から安土桃山時代の武家文化が開花。中でも, 千利休による茶の湯の詫び・寂の精神は焼き物にわが国独特の美学を生む。また, 利休なきあと, 秀吉の豪華絢瀾好みのもとで, ペルシャ模様を配し, 歪みの美を追及した利休とは別の美学というべき新しい感覚をもった織部焼が生まれる。そして400年後の今日, 私たちは, 20世紀の美術文化革命時代といって間違いない時代を迎えている。焼き物ばかりでなく, いろいろな分野で, 広い世界に跨がる美術革命時代が来ている。焼き物にしても, 彫刻にしても, 住まいの変化, 即ちコンクリートの広い家や広い空間に調和する新しい芸術が生まれている。オブジェ風で抽象的な焼き物が盛んに作られている。
先日, フランスで講演をし, 討論したが, 日本の歪みの美や詫び・寂を追及した焼き物, 使い込んで茶渋や人の手の酸により暖か味と潤いのある肌を見せる名品をフランスの大方の人達は否定する。向うでは, シンメトリカルで, まさに真円で, 寸分違わぬ絵付け, 私たちから見ると何とも退屈なものが芸術という。国民による美的精神性の大きい違いを痛感するが, 焼き物は, 使うひとにより名器になる。明日から焼き物を見る目の角度を少し変えて, みなさんの美眼・美意識をもって好きな焼き物を選び, 大事に使って頂きたい。

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