抄録
細胞の老化と不死化は密接に関連している。ヒトの細胞は、堅固な細胞老化機構をもっていて細胞の不死化が非常におこりにくく、それが細胞の不死化機構解明を困難にしている、反対にマウスなどのローデントの細胞は容易に不死化するため不死化の原因を追及しにくい。さらにマウス等においては、myc、p53、SV40Tなどの不死化遺伝子があるが、それらがどのようなメカニズムでマウスの細胞を不死化させるのか全くわかっていない。一方、我々はヒトにおいてマウスと同じくらい高頻度にSV40Tで不死化する細胞(11p-)を見い出した。
使用した2種類の11p-細胞は、老化と不死化の接点にあるクライシスに、それぞれ異なった異常を示した。第一の種類の異常は、クライシスにも多数の細胞が存在していてSV40Tによって正常の7倍の頻度で不死化するe一般にSV40Tを導入した正常細胞のクライシスでは細胞数はきわめて少なくなる。第二の異常は、クライシスが継代の若い時期から始まり、正常の50倍もの不死化率を示した。クライシスは細胞が老化してくると、老化遺伝子が発現することでひき起こされると考えられており、高い自然染色体異常と突然変異をもつ。SV40Tなどのがん遺伝子はクライシスを高め、その結果老化遺伝子自身におきる突然変異もひき上げると考えられる.そして、相同染色体に別々に2個存在する老化遺伝子に2つとも突然変異が生じて、その老化遺伝子が不活化し、老化にともなう細胞増殖の停止が起こらなくなった現象がヒト細胞の不死化と考えられる。