抄録
マウスをはじめ多くの多細胞動物の線維芽細胞は、Phase IIIのクライシスをへて自然形質転換する。ヒト、ウシ、ニワトリなど僅かな種類の線維芽細胞は、PhaseIIIに留まる。細胞加齢を5つの基本的な単位(Phase I、Phase II、Phase III、StI、StI)の否可逆的な進行と見なすことができる。動物種の最長寿命と細胞寿命(Phase IIIに達するまでのPDL)には正の相関がある。また、同一種内の細胞供与年齢と細胞寿命には負の相関がある。老化細胞(Phase IIIの細胞)は次のような特徴がある:(1)細胞集団倍加能力を失っている。(2)長期間活発に代謝し動きまわる。(3)核は基本的には2倍性を保つ。(4)細胞成長因子や血清を過剰に加えても分裂能力は回復しない。(5)細胞周期のG1,期とS期のほぼ境界で留まっている。(6)環境を変えることにより細胞寿命をいくぶんか変えられる。(7)形質転換した細胞と融合させても、老化細胞の表現型を保つ。(8)ヒトやニワトリ等の細胞を例外として、いずれ形質転換して不死化細胞になる。
細胞老化は、分化と異なり必ずしもいっせいに同調しておこってはいない。分化した細胞(血管内皮細胞など)は分化機能を発現しつつ老化する。これらのことから、細胞老化と分化は異なった現象であると思われる。細胞老化は、特異的な遺伝子の発現によって起こると思われる。時間の経過につれて起こる遺伝子発現は、発生学の領域で議論できるであろう。胚の形成時の初期発生に対して、老化の発生学を提唱したい。これは、遺伝子の発現の調節領域に環境因子が影響を及ぼすことを期待している。これによって、老化のプログラム説とエラー説(環境介在説)が同一の場で論じることができよう。