抄録
日本の音楽大学で学ぶ留学生と、その指導をする音楽専門教員を対象にした作品制作についてのインタビューの分析を行い、音楽の作品制作(演奏)にどのような認識の差があるかを探った。その結果、「音の選択」と「計画的な学習の遂行」に関する問題が見えてきた。専門教員は、「音の選択」について音のイメージを伴った楽譜理解、特に電子オルガンの楽器の音を調整するうえでの生演奏に触れる機会の重要性を語り、「計画的な学習の遂行」に関しては、レッスンの課題をしてこない学生の態度を「演奏に対する責任感の欠如」だと指摘した。一方、留学生は「音の選択」について苦手意識を持っているものの、専門教員が重要視する生演奏を聴くことには言及していない。また、「計画的な学習の遂行」については、出身国と比べて日本の音楽大学では練習の進度がはやく、すぐに演奏会と同様のテンポで演奏することが求められるため、インターネット上の演奏に合わせて練習する方法をとったと語った。以上のように、専門教員と留学生の両者は同じ問題に気付いているものの、問題の共有ができていない。留学生が音楽大学の学習に十全に参入するためには、日本語の授業において、留学生と専門教員が相互に問題を共有するための支援の必要性が示唆された。