抄録
患者の体質や症状を 「証」 という概念で個別化して捉え, それに応じた処方設計で治療する東洋医学 (漢方医学を含む) は, 現在の個別化医療 (テーラーメイド医療) を支える重要な役割を担う。 また, その 「未病 (病気になりつつある状態)」 治療は, 西洋医学で患者の視点にたった主観的評価法として発展してきた健康関連 QOL (HRQOL) 向上の概念に合致する。 HRQOL は, 「身体機能」, 「心の健康・メンタルヘルス」, 「社会生活機能」 の基本 3 大要素で構成するとされ, 治療効果や予防介入の効果を測るための種々 HRQOL 評価尺度が開発途上にある。 HRQOL 評価尺度は患者本人が自ら質問に回答する自己報告を基本としている。
生薬製剤は複数生薬を原料とする多成分系のため, 西洋薬に比べ科学的根拠の蓄積が乏しいが, 近年では漢方薬のエビデンス構築に向けた積極的な活動や課題克服の議論が活発化しており, 国内の漢方治療についてのランダム化比較試験 (RCT : Randomized Control Trial) 成績も増えてきた。 そこで我々は, 国内外の RCT における QOL 評価の有無について調査を行った。 海外論文からは1995報について何らかのQOL 評価が行われた RCT が同定され, そのうち漢方薬等生薬製剤についての QOL 評価は39報であった。 国内論文からは日本東洋医学会 EBM 特別委員会, エビデンスレポート/診療ガイドライン・タスクフォース (ER/CPG-TF) による漢方治療エビデンスレポート2010, 及び Appendix 2011について評価を行い, 359件の RCT と1件のメタアナリシスのうち, 21報が QOL 評価を実施し, うち17報が2000年以降に発表されていたことを確認した。 QOL 評価の普及は徐々に進んでいるが, 漢方薬のエビデンス増加の中で, QOL 評価の利用度の低さは顕著であり, その一因として①東洋医学領域で QOL 評価の重要度が十分に認知されていないこと, ②対象患者層に適した QOL 評価尺度の選択に対する困難さ, ③大規模な症例数確保の困難さが挙げられる。