抄録
熱帯熱を除いては, 普通ヒトマラリアでは1個の赤血球の中に多数のマラリア原虫が侵入寄生するような多重感染の現象はあまり見られない。しかし従来の記録では三日熱の異常型として最高8個のマラリア原虫が入った例などが報告されている。一方, 猿のマラリアでは多重感染は決して珍らしくない。数年前たまたま多重感染の顕著なマリラア患者の血液標本を精査した際, あるいは猿マラリアの人体感染例ではないかと疑ったことがあった。この機会に今まで知られている猿マラリアの人体感染症例を集めて総説を試み, 一覧表を作成した。これには自然感染, 研究室内感染事故, 感染実験, および他の病気の治療法としてのマラリア感染などがあり, 約25種類ほどの猿マラリアのうち10種類が人体感染例に含まれている。一般にヒトに感染した場合は, 症状が激しい場合でも血液中にマラリア原虫がほとんど検出されないか極めて少いことが多く, 診断が困難であったり誤診しやすいので注意する必要がある。また血液中に原虫が出現しても, 猿マラリアは通常の臨床検査ではヒトのマラリアとは形態だけでは鑑別が困難なものが多いので, 今まで報告されているよりも実際にははるかに多くの自然感染がおこっているものと想像される。