Journal of UOEH
Online ISSN : 2187-2864
Print ISSN : 0387-821X
ISSN-L : 0387-821X
アルブミンによる毒性物質結合とその「毒」性抑制
-サイコシンとペンタクロロフェノールの例についての考察-
伊規須 英輝
著者情報
ジャーナル フリー

1993 年 15 巻 3 号 p. 217-225

詳細
抄録
サイコシン(psychosine)は, in vitroでは, 強力なcytochrome c oxidase活性抑制に加え, 溶血作用を示す. しかし, サイコシン分解酵素欠損のあるKrabbe病患者やモデル動物での溶血性貧血は知られていない. この"矛盾"の少なくとも一部は, 以下のようにアルブミンの作用で説明し得る. すなわち, 1)アルブミンは, 肝臓でのみ合成され, 一旦血中に放出されると他の細胞中に入らないが, 血液中には多量に存在する. 2)アルブミンはサイコシンに対し強い結合能力をもち, その効果を強力に抑制し得る. 従って, 3)たとえサイコシンが血液中に漏出しても, 血液中でサイコシンが「毒」性(溶血等)を発揮するのはきわめて困難と考えられる. 一方, 特に木材防腐用に広く用いられている人工化学物質のペンタクロロフェノール(pentachlorophenol, PCP)は, in vitroでミトコンドリアの機能障害, 形態学的変化, また溶血を引き起こす. しかし, これらもまた, アルブミンにより抑制され得る. 重篤なPCP中毒で溶血性貧血がほとんど起こらず, 乳児のPCP中毒で交換輸血が劇的効果を示したこともアルブミンの作用で説明し得る. このように, これらの「毒」物のin vitroin vivoでの作用の差は, アルブミンの影響でかなり良く説明できる. これらのことはまた, ある種の中毒のモニタリング, さらには治療において, アルブミンに着目することが意義のある可能性を示唆している.
著者関連情報
© 1993 産業医科大学
前の記事 次の記事
feedback
Top