抄録
加齢に伴う老化現象の一つとして, 外部環境の変化に適応する能力が低下することが挙げられる.実験室における研究でこれがどの程度に実証できているのか, あるいは老化とどのような因果関係にあるのかを概観することにした.ヒト, ラットおよびヒト正常培養細胞を用いた研究で, 熱ショックを含む種々のストレスに対して熱ショック蛋白質(HSP)およびそのmRNAの発現, あるいは, 転写因子(HSF)がHSP遺伝子のプロモーター領域に結合する活性などに関しては加齢と共に徐々に低下することが種々の系で示された.転写因子HSFは恒常的に存在するが, ストレスに応答して活性化する能力が年と共に衰えてくることも共通して見出された事実である.加齢と共に細胞内のレドックス状態が変化することや, 異常蛋白質の増加を細胞が(あるいはHSF)がどのように認知するのかに関してはまだ一定の見解が得られていない.ストレス応答で活性化するキナーゼJNKはアポトーシスへのシグナル伝達を促進するが過剰のHSPで抑制されるので発癌のリスクは助長される.老年期に達すると神経退行変性疾患が発症するメカニズムにおけるHSPの功罪についても言及した.