抄録
製鉄業従事者の疫学研究では適切な曝露評価が必要とされるが, 先行研究ではこれをしばしば欠いて来た. 我々は1980〜1993年の14年間の追跡を伴う中国の某製鉄所における後ろ向きコホート研究を行った. その際, 先ず生涯職種の代用指標として, 追跡終了時に現役だった場合はその時点の職種, 退職または死亡していた場合は最も長く従事した職種を労働者ごとに特定し, 次に, それを職業曝露連関表に当てはめて, 曝露評価を実施した. 合計147,062名のコホート構成員の内, 男性52,394名(43%)と女性5,291名(21%)が粉じん, シリカ, PAH(多環系芳香族炭化水素), 一酸化炭素, 温熱など15種類の作業要因のいずれかへの曝露を有していた. 2,104名の無作為抽出標本における単一職種曝露評価の結果と実際に従事したすべての職種での結果とを比較したところ, 前者の曝露者の割合は後者より12-14%低くなっていた. 本研究では, 曝露の定性評価による過小推定および喫煙と飲酒習慣に関する情報の欠損という限界はあるものの単一職種による作業曝露連関表を用いた曝露評価の有効性が示唆された.