1982 年 4 巻 2 号 p. 169-176
腫瘍は食道上部に隆起性に増生するとともに, 食道入口部より12cmにかけて食道全層性に浸潤が見られた. 前者では, 粘液腫様変化を伴い, 紡錘型細胞の増生からなる肉腫様組織像が見られ, その中に扁平上皮癌巣が散見され, 胞巣周辺で肉腫様の紡錘型細胞と移行する像を示していた. 後者では, 扁平上皮癌の形態をとっていた. 広範な転移巣は, すべて中分化型扁平上皮癌であった. 本腫瘍は, 癌肉腫から独立して, 偽肉腫と呼ばれるようになった腫瘍にあたると考えられる. 本腫瘍の組織学的所見は, さらに偽肉腫の中でも, 問題としている肉腫様の細胞が扁平上皮癌細胞自身の姿変わりであることを思わせた. 食道の偽肉腫の文献的考察を加えて,一剖検例を報告した.