Journal of UOEH
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ヒトの適応能
―特に日本人の気候適応と文化適応―
吉村 寿人
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1982 年 4 巻 3 号 p. 357-377

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抄録

この総説は昭和54年7月11日に産業医大において行った講演の記録に若干加筆したものであって, 日本において行われた国際生物学事業IBPの「ヒトの適応能」部門の内の気候適応研究班の行った研究の成果に著者が京都府立医大在任中に季節生理総合研究班の中で行った研究成果を織りまぜてまとめたものである. その内容は先ず適応とは何かと言う問題を解説して, これに自然的適応と文化的適応のあること, また自然適応の中にも生理的適応と適応分化(遺伝的適応)の区別のあることを明らかにした. そして人間のもつ気候適応を中心としてその「しくみ」について解説し, 生理的適応にもその生まれ育った土地の気候や職業などによって適応には色々のパターンの差を生ずること, 殊に長期に渉る適応と短期の気候適応とはそのパターンがまるで違ってくることを明らかにした. そしてCoon et al.(1950)の説をもとにして人類の気候適応の結果生じたモンゴロイドの人種的特性について述べ, 彼らが寒さに強い適応能をもち, アジア大陸より, アメリカ大陸に渡ってその全土に分布して, 独特の文化を建設したことを述べた. そして最後にアメリカ大陸のモンゴロイドがコロンブスのアメリカ大陸発見によって西欧民族によって亡ぼされた中で, 同じモンゴロイドに属する日本民族のみがよく独立国家として発展し世界の先進工業国家として独自の文化を保つに到ったかの理由についてJohn Hallの歴史観を論評しつつ, 日本人の精神文化的適応性と日本の国土の立地条件等の特性を指摘して解説した.

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© 1982 産業医科大学
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