抄録
日本企業が,タイにおいて,グローバル労働安全衛生マネジメントシステム (OSHMS) を前提とした労働衛生活動を行うために必要な情報を調査した.先行研究で開発した情報収集チェックシートを基盤として,文献などを収集するとともに,現地事業場4社,ISO認証機関1ヶ所,大学などの教育機関2ヶ所を訪問して,タイにおいて労働衛生活動を行うために必要な情報を聴取した.タイにおける労働衛生に関する法令は,2011年に公布された労働安全衛生環境法が基本となり,労働安全衛生環境法の下に13の労働省令が存在する.また,タイ独自のOSHMSの規格 (TIS18000: Thai Industrial Standard) が公表されており,近年,大企業を中心にOSHMSの規格に準拠したシステムを導入する企業が増えている.労働衛生を担う専門職人材として産業衛生専門医,安全衛生専門家 (Professional Safety Officer),産業看護師が養成されているが,事業場の労働衛生で中心となるのは安全衛生専門家である.タイにおいては,労働安全衛生環境法をはじめとした法令を確実に遵守するとともに,事業場の実情にあった自主的活動をOSHMSを基盤に展開することが求められる.しかし,現状として自主管理としてOSHMSの認証を取得している事業場はけっして多くない.また,労働衛生上の成果を上げるために,高い品質の外部サービス機関の選定や専門職人材の活用が不可欠である.日系企業の本社の立場からは,単にグローバル基準を出してその監査を行うだけでなく,安全衛生専門家の積極的活用を勧奨するなどの対応が必要である.