再生医学研究の源流の一つであるiPS細胞(induced pluripotent stem cell)の知見により,ほぼ全ての遺伝子情報が分化した体細胞にも精緻に保存され初期化・再分化できる可能性が明らかとなり,近年細胞内情報を書き換えることで性質を変化させようとする試みが多数みられる.今回我々はヒト発生期の生体内環境を参考に,腫瘍細胞の性質変化を起こす条件を追求し,受精前後の卵胞・卵管内における低酸素環境と無血清環境を模倣した培養実験系を構築した.さらには,発生期の免疫応答や多能性獲得にも関与するWnt/β-カテニンシグナル経路の阻害を併用することで,ヒト子宮平滑筋腫の培養細胞に脂肪分化誘導を惹起した.ヒト発生期の細胞内情報の動態を紹介しつつ,同実験系の可能性を述べる.