住宅建築研究所報
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文化財の保存を目的とした歴史的住宅建築の構造的補強法(新修理技法)の開発に関する研究;接合部の強度について
伊藤 延男西浦 忠輝安藤 直人
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1986 年 12 巻 p. 375-383

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抄録

 歴史的住宅建築の軸組(framework)の基本である柱(column)とぬき(batten)のくさび締めによる接合部(joint with wedges)の強度特性を調べ,又,実大の軸組の水平せん断耐力試験(horizontal shearing test)を行い,相互の関係の解析も行った。 くさびの材質,形状とぬき接合部の強度性状との関係についての実験から次の知見が得られた。(1)通常の短形くさび(nomlal short type wedges)の場合,接合部に対する荷重はくさびとぬき材への部分圧縮応力(local compressive stress)として作用するので,くさびの材質(圧縮強度)がぬき接合部の強度に大きく影響し,ヒノキ(Japanese cypress)に比べてケヤキ(zelkova)で約30%,プラスチックでは約50%強度が上昇する。(2)長型くさび(long type wedges)は初期固定時の締まり具合は大きいが,荷重に伴う変形時に,くさびと柱材,くさびどうし,くさびとぬき材の間でスベリ現象が起こる結果,通常短型くさびに比べて,強度的に優れているとは言えず,荷重解放時の復元性,即ち耐久性では劣る。このことは繰り返し変形試験により明白となる。実大軸組水平せん断試験の結果次の知見が得られた。(1)せん断耐カはくさびの材質によって,ヒノキ<プラスチック<ケヤキの順にわずかに大きくなるものの,耐力型(bearing wall)として壁倍率(wall bearing ratio)を評価する上ではむしろ差はないと見なし得る。(2)繰り返し加力の影響は最大荷重の45%まではほとんど認められないが,60%を超えると顕在化する傾向が見られる。ぬき接合部についての部分実験と軸組のせん断実験の結果を比較すると,本軸組の剛性がが極めて低いために,軸組のせん断耐力を過大評価していることが明らかになった。構造体としての耐力を評価する上で,比較的柔らかい(flexible)本構造のようなケースではさらに一層の検討を要する結果と言える。

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© 1986 一般財団法人 住総研
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