住宅建築研究所報
Online ISSN : 2423-9860
Print ISSN : 0286-5947
ISSN-L : 0286-5947
12 巻
選択された号の論文の26件中1~26を表示しています
  • 稲垣 栄三, 山田 智稔, 野口 徹, 陣内 秀信, 小林 英之, 藤井 恵介, 伊藤 毅, 渡辺 洋子, 伊藤 裕久, 滝井 恵
    1986 年 12 巻 p. 99-110
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は前年度調査研究を継承・発展させたもので,現存する遺構と文献史料から日本の中世都市および集落における居住形態を遡及的に解明することを目的にしている。調査対象はこのような観点から現状遺構が比較的よく残っており,かつ中世史料がまとまって存在する滋賀県伊香郡西浅井町菅浦と茨城県新治郡八郷町の2地域を選定した。調査の方法は,建築類型学的方法を各スケールに適用し,その共時的空間構造および通時的展開・変容過程を明らかにし,それに文献史料による知見を重ねあわせることによって,現状・近世・中世の都市・集落の空間構造を段階的に解明することを試みた。菅浦は,中世惣村としてすでに著名であり,琵琶湖北岸の狭隘な谷間に位置する集落で,高密な集落空間をもつ。現状調査および史料分析の結果,現在の集落空間の構成はその先行条件となる地形および水系に大きく規定されており,集落の形態・領域性は基本的に中世のそれを重畳的に踏襲していることが明らかとなった。また住居・敷地,道・路地・浜などの共用的外部空間,神社・寺院などの存在形態は中世以来の集落構造およびその展開過程と分かちがたく結びついていることが解明された。八郷町は,菅浦とは異なり内陸部の八郷盆地に分布するおよそ50の集落と町からなる。この地域は盆地という地形のもつ領域性が古くから存在しており,それは現在に至るまで踏襲されているとみることができる。盆地内部には大小さまざまな形態の谷戸が地形を刻み,多様な地形を下敷きとして中世以来の集落・町がその基本的形態を残しつつ,多様な形で,分布する。これらを類型化し比較検討するなかで,この地域における住居集合の基本的構成要素として,「坪」と「宿」が抽出され,これらはいずれも中世的居住の基本的単位でありたと推測される。
  • 青木 正夫, 竹下 輝和, 友清 貴和, 宮崎 信行, 岡 俊江, 河野 洋子, 末廣 香織, 藤田 由美, 磯貝 道義
    1986 年 12 巻 p. 111-126
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究の内容は,近代の中流住宅を対象とする史的研究と,現代の中流住宅を対象とする現代研究に大別される。まず,史的研究編では,近代中流住宅の1つである,居間中心型平面の成立と展開の過程を解明し,その史的評価を再検討した。その結果は,次の通りである。第1に,この平面は,文部省による生活改善運動のなかで,生活難打開と生活洋風化を目的として提示された。第2に,この平面は,欧米住宅を模倣する観点から,我国住宅を欧米住宅化する計画手法の結果として成立した。しかし第3に,この平面は,居間の中央配置が計画上の考え方となり,2つの異なる方向に展開した。第4に,この平面は,欧米住宅の模倣から出発して我国住宅に接近するという異質な方向で成立し展開したから,住宅の歴史的発展の成果とは評価しがたい。次に,現代研究編の目的は,(1)居住者の接客空間に対する意識・要求を捉えることと(2)接客空間に対する要求構造を検討して,現代における続き間座敷の存在基盤を明らかにすることである。このために,前報の供給プランの平面類型化の典型事例に対する嗜好調査と住まい方調査を行った。その結果は,以下の通りである。座敷(床の間を備えた和室)に対する要求の強いこと,特に,和室2室の続き間座敷に対する要求が強い。しかし,座敷に対する意識に変化がみられて,それは座敷に対する意識と住まい方の両方をみると明らかである。即ち,座敷を格式的な空間と考えていて,接客と家族内儀礼の時だけ使用して,日常生活には全く用いない例が存在する一方で,座敷を実用的な空間と考えて日常的に就寝や家事に使用する例や座敷を不要と考える例もある。
  • 大岡 敏昭, 木村 永遠, 中村 禎男
    1986 年 12 巻 p. 127-150
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は,江戸時代後期において,各藩独自の平面構成が成立分布し,藩領域で農家住宅の平面構成(発展系統)が異なっていたことを実証し,更に,江戸後期を基点にそれ以後の発展過程とそれ以前の各藩の特徴的な住宅の成立過程を解明,実証することを目的としているが,本報告は以下の研究課題について分析したものである。①前報告に引き続き,藩領域で農家住宅の平面構成が異なっていることについての実証事例の拡大を行い,前報告の東北(北部)地方と九州地方の15藩に引きつづき本報告は,東北(南部)地方の4藩と中部地方の4藩を対象に考察する。 ②各藩の農家住宅の発展過程を考察する。特に,1つの藩領域内に異なる系統の住宅の混在分布,及び同じ系統であるが異なる発展過程の住宅の混在分布がみられる藩の「混在化現象」と,ある系統の住宅から他の異なる系統への「転換過程」について分析する。③その藩で,独自で独特の平面構成の農家住宅が成立した要因を武家住宅,家作規制との関連で考察する。その結果,解明された主なことは以下の5点である。①東北南部地方の4藩,中部地方の4藩の農家住宅も藩によってその平面構成(発展系統)が異なり,その藩独自の平面構成が成立している。②しかも,ある藩域が江戸後期に天領化,他藩の飛び地化した地域においても,江戸中期までの藩領域が江戸後期に建てられた農家住宅の平面構成と分布圏域を規定している。③異なる系統の農家住宅が藩内に混在分布している「混在化現象」は,ある系統の住宅から異なるある系統の住宅への「転換過程」が存在している。④在郷武士がかなりいた藩の農家住宅は,その藩の城下町武士-在郷武士の住宅と極めて同質である。特に在郷武士の制度が江戸末期まで続いた藩はその傾向が顕著である。⑤家作規制は藩によって,その対象設定,内容,頻度が異なっている。そのことも,その藩の農家住宅の平面構成と分布形態を規定した条件の1つである。
  • 富山県における農家住宅に関する研究
    玉置 伸俉, 押谷 茂敏, 堀内 勝, 岡本 道弘, 北川 浩, 奥田 徹, 炭田 浩孝, 樋口 裕
    1986 年 12 巻 p. 151-168
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究の目的は富山県における農家住宅の型系列の分類を行い,各系列ごとに現在に至るまでの農家住宅の発展過程を明らかにすることである。また,富山県は従来より日本の中で最も住宅規模の大きい県として知られており,住宅規模が大きい要因を建築計画的側面から明らかにすることも目的の1つである。研究の方法論としては,農家住宅の平面図及び住宅の使われ方の分析とともに,住宅構造図を作成することによって,構造上の相違及び発展過程を分析することにも力点を置いている。調査対象は富山県全域の農家住宅であり,建設年代別に対象住宅を選定した。調査時期は1984年~1985年であり,対象住宅数は358件であった。 研究の結論を要約すると以下のごとくになる。 1.富山県の住宅はヒロマ型に属するものでヒロマを中心に部屋が構成される。 2.富山県の住宅は呉東地区と呉西地区で2分され,それぞれ独特の様式を持つ。また従来の通説であったI型,II型は呉東型として一体の型における発展過程の相違として捉えることができ,各型の発展過程を具体的に明らかにした。 3.ヒロマの架構は「6本柱」によって構成され,住宅の構法はこのヒロマを中心に展開する。 4.従来のサス組みから和小屋組に転換した時点で,構法上の自由を獲得することによって,住宅平面計画上も飛躍的な自由度を得る。 5.元々,大規模であった住宅規模は近年になるに従い,さらに大規模化しているが,その要因の1つはザシキや応接間等の接客空間が大きく取られることにある。また,住宅の中心を占めていたヒロマは新築住宅ではその比重が小さくなってきている。 6.近年の住宅においては,廊下等通路空間の発達も著しい。 7.元来,平家建てであった住宅は,最近の新築住宅ではほとんどの場合,2階化しており,2階は若夫婦及び子供の私生活空間に充てられる。
  • 佐々木 嘉彦, 渡辺 正朋, 梅津 光男, 月館 敏栄, 戸部 栄一, 志田 正男
    1986 年 12 巻 p. 169-179
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     この研究は,東北地方の特色ある文化圏における中心都市の戸建持家を対象として,生活文化とその変容という視点から建築形態及び空間構成の地域的特徴とその意味を分析し,あわせて住居における地方性の概念化を試みることを目的としている。少なくとも戦前までは,住居には生活的意味の他に格式的意味-身分に応じた構え・しつらえをし,身分を表現すること,が存在した。しかし,今日では,生活の変化とともに格式表現の意味は失われている。これに伴い,建築形態・空間構成とその意味も今日的に変容しているに違いない。このような仮説のもとに,昭和59年度においては,弘前・遠野・仙台の3市における中規模住宅約270戸について,屋敷構え,間取り構成,座敷の構成,構法等を知るための実態調査を行い,また,新しい住居観等を知るための意見調査を,3市の新築住宅950戸を対象として実施した。このデータを整理した結果,およそ次のことが知られた。(1)住宅外部,間取り及び構法に伝統的な形態を残しているものはごく稀である。(2)和室と洋室をもつ間取り型が定着したといってよく,洋室だけの間取りは見られない。しかし,新しいもの程洋室の割合は高い。(3)続き間はかなり見られる。しかし,座敷飾りは伝統的な構え方と比べ変容が著しい。玄関構えや座敷庭の変容も著しい。(4)続き間がない住居でも,伝統的な座敷構えに類似する和室をもつ。これには,独立和室の場合と,洋風構えの室と続き間になっている場合とがある。(5)伝統的住居との相違は建設時期が新しいものほど,規模が小さいほど著しい。(6)新しい住居観は,機能本位の考え方,人並主義,住宅を自己表現とみる考え方などにみられ,よい住宅のイメージと重なる。(7)上記の特徴は,部分的な相違はあるが,3市の大きな差として表われてはいない。
  • 堀江 悟郎, 高橋 公子, 内田 茂, 小峯 裕己, 三浦 昌生, 郷 美弥子, 殿村 泰子, 山岸 良一
    1986 年 12 巻 p. 181-192
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は,住宅の空間構成手法の1つであるトップライトを対象として,以下の項目に関する調査・測定を通じて,トップライトとそれが形成する室内環境との関連性について検討したものである。 1.設計事例の特性の把握 建築作品集掲載のトップライトのある住宅100例の特性を調査して,①トップライトは居間・食堂等,住宅の中心的役割を果し,居住者の滞在時間が長い室に設置される例が多いこと②採光方位は天頂と南が多いのにもかかわらず,日射調整や通気のための装置が設置されていないものが多いこと③開口面積は設置室の機能とも関連して,バラつきが大きいことなどを明らかにした。 2.居住者に対するアンケート調査 建築雑誌掲載のトップライトのある112戸の居住者を対象として,効果や室内環境に関するアンケート調査を実施し,①居住者は,採光や日射による採暖の効果の他,開放感・部屋の広さに関する印象・屋外との触れ合い等の心理的な効果を評価していること②日射調整や通気のための装置の不備,清掃のしにくさ等の不満を抱いている人が・多いこと③ただし,総合的評価では,満足している人が多いこと などが明らかになった。 3.室内物理環境の実測 トップライトのある建築家の自邸5軒の居住状態における夏季の室内環境を各々1週間程度に渡り計測し,採光面が天頂に向いているトップライトの方が,鉛直面から採光するものに比べ,設置空間の上下温度差がはるかに大きいことを見出すなど,トップライトの形状と形成される室内環境の間には,有意な関係があることを示した。 4.設計上の注意事項の検討 トップライトが形成する室内環境は,設計時に建築的・設備的対応を考慮することにより,良好なものを計画し得るので,設計上の注意事項を検討・整理した。
  • 尾島 俊雄, 斎藤 忠義, 森山 正和, 西岡 哲平
    1986 年 12 巻 p. 195-206
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究の目的は暖房中の住宅の室温・湿度・輻射条件・気流・空気清浄などの熱的環境要因を計測し,その場で,それらの評価及び問題点の検討を行う診断システムの開発である。これらの作業を居住者と対話しながら迅速に進めるため,計測器とマイクロ・コンピュータをオンラインで接続した。計測値各項目を5段階の評価基準で採点するためのプログラム及び期間暖房負荷計算プログラム,室内の温度・湿度・CO2濃度などのシミュレーション・プログラムを,このシステムのために開発した。暖房負荷計算とシミュレーションは非定常(Unsteady stage)計算法によっているが,気象データを簡略化して計算に必要な時間を短縮している。このシステムによって,東京及び富山地方の住宅の室内環境を計測評価し,各々の地方から1つずつ適当なサンプルを選び,問題点の究明と具体的な室内環境改善対策の検討を行った。その結果,外壁・天井・床にグラスウール厚さ50mmをていねいに施工し,窓の内側に二重のカーテン(十分な厚さを持った)を設ければ,少なくとも両地方においては室内の温度及び湿度に関して十分満足すべき水準に保つ事が出来る事が判明した。一方,暖房器具は燃焼ガスを室内へ排出する方式を使用した場合(開放型ストーブ利用)気密性の低い木造住宅の場合でも暖房中室内のCO2濃度が許容レベル(1000ppm)の数倍まで上昇するので,望ましくない事も判った。
  • その1・モノ保有の標準化の追求
    上林 博雄, 沖田 富美子, 塩谷 寿翁, 一棟 宏子, 中島 喜代子, 上野 勝代
    1986 年 12 巻 p. 207-218
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は我国の住宅における収納空間の標準化を計るために,第1の段階として各種の条件をもった世帯における生活用品全体を調査したものである。これより各生活用品種類別に保有品目数と世帯のもつ諸条件との間にある法則性を探究することを研究目的とする。ここに有効な調査対象世帯は1,066件に及び,調査生活用品は513品目に及んだ。まず家族周期別に3ステージのモノ保有について比較検討をおこない,次いでホワイトカラー層とブルーカラー層の2社会階層について,最後に平均住宅規模別に平均約80㎡余と平均約100㎡余の2階層の建売住宅階層について同様な比較検討をおこなった。その結果を端的に要約すれば,生活用品の品目類はライフ・ステージの上昇とともに全般的に増加するが品目別に見れば一様ではない。またライフ・ステージが上昇すると必要性評価以上にモノ保有がなされる傾向が見られる。世帯主が同年配の社会階層では一般にブルーカラー層の方がモノ保有品目数が大きく,特定の品目にのみホワイトカラー層の方が保有品目数が大きい現象が見られ,必要性評価は後者の方がきびしい。なお住宅階層では一般に上の階層の方がモノ保有品目数が多くなるが,品目によって差異があり,必要性評価は上の階層の方が甘くなっている。次に,対象世帯にかかる各条件を整理し分析対象を772件にしばり,モノ保有に関係する要因と保有品目数との相関性を分析した結果,家族条件は日常生活用品との関連が強く,総保有品目数は社会的階層条件及び住宅条件の一部に強い関連が認められ,別に生活観とも部分的に相当な関連が認められた。またモノ保有品目数に影響を及ぼすのは日常用品,予備用品,客用品とも家族構成,住宅の延面積,生活観パターンであるが,これを必要性評価要因を加えるとそれぞれ高い累積説明率を得た。最後に生活用品の保有パターンとして6段階のクラスターを得,また品目別に保有率を算出して7カテゴリーを分けた。これらより各クラスターに属する世帯の諸条件を比較してそれらの性格を明確にした。以上より,保有の標準化を計る有力な手掛りを得たと言えよう。以後,引続いて標準化を探究する研究作業を続行する。
  • 湯川 利和, 瀬渡 章子, 塘 なお美, 糸賀 万記
    1986 年 12 巻 p. 219-230
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究の目的は,主に高層住宅の環境が子どもの発達と活動を阻害しないための空間的条件を明らかにすることである。今回は,子どもの生活時間,子ども部屋の実態を明らかにするとともに,高層住宅環境が心身に及ぼす影響についても分析を行った。そのためのアンケート調査を,幼児母親・小学生とその母親を対象に,大阪・南港ポートタウン内の高層住宅団地で実施した(1985年8~9月,サンプル総数525)。生活時間の中でとくに注目されたのは,テレビ視聴時間が幼児から小学校高学年までほとんど変化がないことであった。階別の生活時間分析では,幼児では上層階の方が屋内での活動時間が長く,屋外遊びは少ない-すなわち住環境の影響を受けていることが明らかとなったが,小学生では一貫した傾向はつかめなかった。NHK調査との生活時間比較を行ったが,高層住宅であるために活動が阻害されている傾向は見出せなかった。子ども部屋の保有率は高い。共用室が多いものの,学年上昇にともない個室率も上がる。また子ども自身,母親ともに個室要求が強い。しかし母親は,最初から個室というのではなく,年齢に応じた与え方が必要と考えていることがわかった。高層住宅環境が子どもの心身に与える影響については,不定愁訴と性格特性を分析する方法をとった。小学生でも不定愁訴を訴える割合は高い。不定愁訴を多く訴えるのは,屋外遊びが少なく,母親によく叱られる子どもであった。これらの要因は居住階の影響も受けており,不定愁訴が少なからず住環境の影響を受けていることが明らかとなった。性格特性の分析でも,情緒安定性・社会的適応性・活動性・外向性の4因子について,住環境の直接的,間接的影響を見出すことができた。
  • イギリスの実例の分析‐ハムステッド・ガーデン・サバーブを中心にして‐
    香山 壽夫, 片木 篤
    1986 年 12 巻 p. 231-242
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は,19世紀後半から20世紀初頭にかけて建設され,その後の近代都市計画や建築に大きな影響を与えたと考えられる郊外住宅地計画とその住宅建築を研究するものである。本年度は,イギリスにおける事例を取り上げるが,その中でも特に田園郊外の傑作,ハムステッド・ガーデン・サバーブの都市計画と建築を詳細に分析する。本年度研究報告は5章から成る。第1章では,ハムステッド・ザーデン・サバーブの開発経緯を論ずる。まず開発の背景,契機,諸組織の活動について,創設者たるバーネット夫人の活動を中心に見てゆき,次にアンウィンの全体計画とラッチェンスのセントラル・スクエアのデザイン・プロセスを追跡する。 第2章では,ハムステッド・ガーデン・サバーブに至るまでのアンウィンの都市計画例とアンウィンの主著『都市計画の実践』(1909)を分析することにより,彼の都市計画の特質を明らかにし,それを近代都市計画史に位置付けることが試みられた。第3章では,パーカーとアンウィンの住宅建築を論ずる。1870年代以降の「住宅復興」(Domestic Revival)において,住宅に対する新しい理論と実践が展開された。ここではそれがパーカーとアンウィンに及ぼした影響を分析し,彼等の住宅理論や作品における平面,立面構成の特色を明らかにしている。第4章では,パーカーとアンウィンの住棟配置計画を,経済性,社会性,芸術性の観点から論ずる。その内,芸術的観点から見た住棟配置計画については,1)直線,あるいは曲線道路に沿った住棟配置,2)クルドサック道路とクアドラングル型住棟配置,3)道路交差点を囲むバタフライ型住棟配置の3つの場合を分析する。第5章では,ハムステッド・ガーデン・サバーブにおけるクルドサック道路とクアドラングル型住棟配置及び道路交差点を囲むバタフライ型住棟配置の実例を詳細に分析している。
  • 本田 昭四, 山下 良二, 新垣 洋史, 岩下 陽市
    1986 年 12 巻 p. 243-255
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     わが国では1880年代の近代炭鉱業の成立期以降,1960年代の炭鉱合理化に至るまでに大量の炭鉱労働者住宅が建設・供給されてきた。しかし1960年代のエネルギー政策の転換により,炭鉱業はスクラップ化され多くの炭鉱労働者は失業し,産炭地域より流出した。以後1970年代に入って,この地域の振興がさけばれるようになった。本研究は以上の80年間に企業により供給・建設された炭鉱労働者用住宅‐以下炭鉱住宅と略‐を対象としてその歴史的な変化発展の過程につき住宅政策及び住宅計画という視点から考察したものである。さて,炭鉱業においては資源と生産方式の制約から労働者の居住の場が限定される。また労務管理の必要から集団居住が強制された。わが国では,これらの集団住宅を古くは納屋,小屋,飯場とよんだが,以上の労使関係の展開からこの呼称は坑夫長屋,鉱夫宿舎,炭鉱労務者住宅と変化した。とくに戦中,戦後に建設された炭鉱労務者住宅が,戦後の民主化運動の過程で行政的に「炭鉱住宅」と呼称されるようになった。本報告は大きく2つに区分される。まず第I編では1900年から1960年までの炭鉱労働者用住宅の発生と変遷を文献資料と現存する住宅の現地調査にもとづき整理し,これと同時代の住宅政策や集団住宅計画の展開と比較研究する。これによって,わが国の労働者住宅の重要な部分である炭鉱住宅の政策・計画論上の特質について考察する。つぎに第II編では1960年以降の旧炭鉱住宅の滅失と再編・改良のプロセスについて調査研究を行っている。とくにこの期間に実施された「住宅地区改良事業」について実施された事例の分析を試みている。さらにいくつかの典型町のフィールドにして80年間の地域と住宅の変遷について通史的な考察を行っている。
  • 片岡 正喜, 佐藤 誠治, 村上 良知, 中園 真人, 有田 幸生, 藤田 正文, 中村 禎男, 岡本 恒之
    1986 年 12 巻 p. 257-265
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は,身体障害者向け公営住宅供給において,ノーマリゼーションの方向に沿った住戸計画の可能性を見出すためのものである。身障者(向け)住戸は,これまで一般住戸とは異なるものとして特殊な扱いがなされてきた。この過程でノーマリゼーションの思想が導入されることにより,身障者住戸をできるだけ一般住戸に近い条件で共通性の高い計画にすることが求められてきた。一方,住戸の計画条件として最も重要な一般住戸の面積水準は経年とともに漸増を続けてきた。その結果,従来のように一般住戸面積に加算するのではなく,一般住戸と同じ面積水準で身障者住戸を計画できる条件が備わってきた。対象として,107の自治体から昭和53年以降に建設された身障者住戸とその上階の一般住戸の平面図を収集した。これらの住戸型は,身障者住戸では2LDKが,次いで3DK,2DKが主なタイプであり,一般住戸では3DKに集中している。一般住戸3DKの面積水準は,平均59.4㎡で,現在考えられている身障者住戸2DKの最低居住水準値を満たし,2LDKのそれには1.6㎡不足する程度である。上階一般住戸と下階身障者住戸との平面プランに共通性が高いのは,上階一般住戸3DKと下階身障者住戸3DK及び2LDKの対応である。前者の対応では上階一般住戸から面積の制約を受けるため下階身障者住戸の各室に問題が多い。後者の対応では上階のDKと隣接居室を一体化し下階でLDKとし,各室の面積にも問題が少ない。以上から,上階一般住戸3DKの下階に身障者住戸2LDKを対応させ計画することが望ましいという結論を得た。対応する住戸について,一般住戸は健常者面から,身体障害者住戸は健常者面及び身障者面から評価し,上下階ともに評点の高い対応する住戸を抽出し,一般住戸と身障者住戸との連続化を図ることのできる住戸平面のモデルプランのべースとして提示した。
  • (高齢者住宅政策の研究)
    吉野 正治, 菊澤 康子, 岸本 幸臣, 近野 正男, 鈴木 晃, 多治見 左近, 馬場 昌子, 水野 弘之
    1986 年 12 巻 p. 267-279
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     この研究は高齢社会における高齢者のための住宅政策についての研究である。研究は2つの部から成り立っている。第1部は,高齢者の居住施設についての先駆的事例についての研究である。先駆的事例を研究することによってわれわれは多くの教訓を引き出すことができる。先駆的事例として注目したのは,自治体によって供給されている老人ホーム(dormitry),老人向け公営住宅,高齢者向けの民間供給老人アパートであった。また菊澤康子が北欧に行く機会があったので,北欧における老人向け住宅について資料を収集し,先駆的事例として研究した。第2部は高齢者の日常生活についての実態調査である。高齢者の日常生活については,必ずしも十分知られていない。とくに中層フラットに居住する高齢者の日常生活はあまり知られていない。高齢者にフィットした住宅政策を樹立するためには,彼等の日常生活を十分知らねばならぬ。調査は公団アパート,公営アパートに居住する60才以上の老人1722人について実施された。回収率は44%であった。調査によって入手した資料から,高齢者の日常生活圏の広がり,人間関係,安全性への適応能力などの知見を得ることができた。
  • 林 玉子, 児玉 桂子, 小滝 一正, 中 祐一郎, 大原 一興, 鈴木 晃, 外山 義
    1986 年 12 巻 p. 281-299
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     加齢に伴なう心身機能の低下は高齢者にとり避けられない問題であり,人口の高齢化によりこうした問題を持つ高齢者数は確実に増加しつつある。このような現実に対し,心身機能の低下を配慮した建築的条件に社会福祉保健医療サービスを併合した居住環境の必要性は高い。本研究は,高齢者の健康な段階から病弱,死に至るまで,次第に変化していく心身機能条件に対して,その低下を補って,自立生活を援助する,又は生命を維持するために必要となるケヤ・サービス条件と建築的対応条件,結合様態,問題点などを把握し,日本における新しい高齢者居住環境の方向性とそのあり方を明確にすることが目的である。研究は2年に渡って継続し,今年度は以下の3つの課題を設定した。①,ケヤ・サービス条件と建築的条件の対応関係の検討:まず国内外の文献を調査し,本研究で用いる概念の明確化を図った。さらに日本及びスウェーデンにおける居住環境体系,ケヤ・サービス体系全般に渡る実状を把握し,本研究で独自の視点として心身機能を軸として再整理を行った。②,心身機能の低下に伴う高齢者の住生活二ーズの考察:高齢者の心身機能を把握する尺度を設定し,多様な心身機能レベルに対応する建築的二ーズ,居住形態に関する二ーズとケヤ・サービスニーズを捉え,両者の結合したものを住生活二ーズと設定した。今年度はE区に居住する50歳以上の中高年齢者1588名の意識調査を基に考察を行い,現実的な制約を外した条件下での住生活二ーズを把握した。③,痴呆老人のケヤ・サービスニーズの把握:これまで的確な住生活二ーズが捉えられていなかった痴呆老人に関して,既存文献より,行政側,家族側から提示されたケヤ・サービスと物的な対応を整理し,次に痴呆老人専用施設2カ所において,療母,看護婦などの1日の断面追跡調査を行い,ケヤ・サービスの実情(性状)を把握した。
  • 広原 盛明, 寺田 敏紀, 青木 正文, 真鍋 弘毅, 千葉 桂司, 中沢 龍雄, 中西 義和, 太田 隆司
    1986 年 12 巻 p. 301-311
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     住宅供給に際して,土地所有者は,それぞれの社会・経済的背景やライフステージ,建物の老朽化等諸々の要因の中で資産運用の動機を形成するが,その行動パターンには資産階層(土地の保有量や自営の内容等)の属性によって一定限規定されていると考えられる。本研究では,住宅地としての性格もなお強い京都都心部を対象に,「いかなる人(資産階層等の属性)が,いかなる要因で,いかなる資産運用(主に供給者の使い方)をしているか」という資産運用のメカニズムの検討を行ない,その視点から良好な住宅供給促進の可能性を見出そうとするものである。 土地所有者が直接その土地で賃貸住宅経営等の資産運用を図る目的は,「有効利用」と「相続税対策」である。この資産運用の目的とメカニズム形成の基本的な要因として,「資産階層(土地の保有個所数)」,「自営業の内容(主として業種)」,「ライフステージ」が本研究によって指摘できる。また,供給者が自ら居住または営業する自己利用型の共同住宅建設事例が主流であることから,とりわけ彼らの居住や営業に関わる要因への配慮が住宅供給促進の大きなポイントになると考えられる。次に,敷地面積と供給住戸規模(主としてワンルーム)が全般的に小さいという事態は無視できない問題点であるが,分譲住宅に比べ平均階数が4~5階で容積率も相対的に低い。供給者の自己利用型が多く,地域との関わりも有しているという特徴がある。従って,今後敷地規模の狭小さに対応できる形態規制による環境担保と,供給住宅規模の拡大への誘導を図る上で,上記のような持性をうまく活用し,かつ経営的にも成立する条件を設定できるならば,資産運用のメカニズムからみて,①既住人口の定住と世帯向け新規住宅供給の合体,②既存環境との調和を図る可能性は十分に見出せるものである。
  • 三宅 醇, 小川 正光, 松山 明, 田中 勝
    1986 年 12 巻 p. 313-322
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     この研究は,同名の前回研究(No.8110)に引き続くものである。前回研究では,明治以降現在に至る主要な住宅事情の流れを,都道府県別のデータに推計整理し,各時代ごとの主要な住宅型のプランの代表例によって,量的質的な,住宅事情史の概親を試みた。今回の研究では,過去の住宅事情の構造的把握により将来予測をする方法の開発に意を用いた。将来予測は困難な課題だが,もし可能ならば,現在の矛盾の拡大方向や,自然の治癒作用が分かり,要求の発展のレベルの予測によって,政策の展開がより有効に提起できるようになるはずだからである。今回の研究では3つの予測を行った。第1に,年齢×人員数というライフサイクルマトリックスの利用による新しい住宅事情の予測法(ライフサイクルマトリックス法:LCM法)を開発して,全国を大都市圏域(10大都道府県)と地方圏域(その他地域)の,住宅所有関係別住戸数の,ストック予測を行ってみた。ストックの増は,従前よりも低下し,建設フローも現在の7~8割程度に低下すると考えられる。第2に,人員数別住宅畳数による,住宅規模水準の予測を行ってみた。住宅規模の拡大と,低レベルでの停滞の2極分解が予測される。住居水準値の政策的決定にも住戸規模の予測は重要な役割を果す。第3に,過去の住宅型の発生理由と,その住戸プランの変遷の再整理を行い,上記の水準についての将来予測値を加味して,今後の住戸プランや住宅計画上の留意点について,居住者のデマンド予測からの予測的提言を行った。前回の報告と合わせて,日本の全住宅について,住宅需給構造上の型区分によって流れを追い,予測を含めて100余年の住宅事情史概観の重要データを作成することができた。
  • 巽 和夫, 高田 光雄, 森本 信明, 水原 渉, 戸田 晴久, 石倉 健彦
    1986 年 12 巻 p. 323-336
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     住宅は,わが国の一般的な社会通念としては「社会資本」とはみなされていない。社会資本は,道路,公園,港湾などに代表されるように,生産手段または生活手段として社会に共通に使用される公共施設を意味することが多い。たしかに,住宅は,その最終利用単位である住戸レベルにおいては明らかに私的な性格を有する財である。しかしながら,住宅は典型的な社会資本とはいえないまでも,それが置かれているある条件のもとでは,あるいは,一定の住居集合形態においては,社会資本的な性格を帯びる場合がある。住宅の社会資本的性格の側面として,次の2つを挙げることができる。ひとつは,住宅が社会福祉目的をもって供給される公共賃貸住宅の場合である。低所得者,老人,母子家庭のように住宅に関して何らかの社会的保護を必要とする需要者を対象とする公営住宅は,本来こうした需要者層に共通に利用されるべき生活的社会資本として機能している。現実には,利用者の入れ替わりがスムーズに行われず固定化されがちなことに批判があり,他方では,住戸が公共財であることによる住生活への拘束性が問題とされている。もうひとつは,住宅の集団化や集合化に伴って生ずる社会資本的性格の発生である。もともと住宅建築活動は,「建築基準法」をはじめとする各種の法律・条例・要綱等で規制を受けており,住宅は社会的生産物としての責任を負わされている。とりわけ,高密度居住を余儀なくされている都市住宅,特に集合住宅は,住戸間の相互調整,共同利用空間の創出,都市資産としての形成などを通じて,社会資本的性格を強めつつあるといえよう。今日の都市住宅供給は,一方で,住戸レベルでの私的財的特性を発展させることによって居住者の個別的な住要求に対応し,他方では,共同利用空間の水準向上により集合居住の快適性を増し,あわせて健全で,安定した建築資産の形成をはかることが要請されているのである。本研究は,上に述べた住宅の社会資本的性格の2つの側面のうち,後者の問題をとりあげて,都市における住宅供給の意義に合致した住宅供給システムのあり方を検討しようとするものである。
  • 住田 昌二, 檜谷 美恵子, 多治見 左近
    1986 年 12 巻 p. 337-352
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     一般に都市化がすすむと,賃貸住宅居住がすすむとみられているが,戦後の住宅所有形態(housing tenure)の推移は,長期的にみれば,「庭つき戸建」に先導される持家の普及プロセスであったと概括される。本研究では,戦後を中心とした持家所有の推移過程と持家の社会ストック構造に関して,日本と英・米との共通性と差異性を比較社会論的に検討することから,今後のわが国の住宅所有形態,とりわけ持家所有の帰趨について知見を得ようとする。 研究は2年とし,初年度は時間軸の視点から,戦後に重点をおきつつ今世紀における持家所有の推移の3国間比較を行なう。次年度は,空間軸の視点から,持家の社会分布構造を,主としてロンドン・ニューヨーク・大阪の3大都市圏を実例・として比較分析する。初年度の研究では,統計資料の分析を通じて,人口の都市集中,階層構成,住宅フローとストックなどの過去百年余の推移を検討したが,その結果を大きくまとめれば,つぎの2点となる。第1に,3国とも持家所有の推移には地方差が存在するが,全体として持家率は確実に上昇してきていることを確認した。借家は住宅のフローの変化には寄与するが,ストックの変化に影響を与えておらず,持家化は非可逆的なプロセスとみなされる。第2に,3国のテニュアの変化のなかでは,わが国戦後直後の持家率の急激な上昇ぶりが注目されるが,これが,実は今日の高い持家率の基因をなしている。英・米がこの時期に戦後住宅政策の方向を固めたのとは対照的な,政策放置の結果であるともいえる。本研究は,このあと持家階層の現状分析,持家の住宅形式の系譜化,大都市圏における持家立地の比較分析へと発展させていく予定である。
  • 藤澤 好一, 大野 勝彦, 安藤 正雄, 松留 慎一郎, 松村 秀一, 遠藤 和義
    1986 年 12 巻 p. 353-373
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     1章では,木材加工の機械化技術の流れを振りかえりながらプレカット工法の技術特性と木造軸組工法の生産システムに及ぼした影響について考察,概観し,本調査の視点となる要素を抽出した。2章では,限られた地域で比較的まとまった戸数の木造軸組工法住宅を生産供給している「地域ビルダー」の業態調査の結果である。生産規模が比較的大きい(百戸以上)のビルダーほどプレカット工法の導入に積極的であるが,業態が注文主体か,建売主体かによってプレカット部材の扱いが内製化と外注化に分かれる傾向がみられた。また,小規模な採用例もみられた。 3章では,プレカットエ場について調査し,その業態から,4つのタイプ(I.大手下請型,II.地域ビルダー型,III.材木店型,IV.工務店型)に類型化し,その特徴について普遍化させた。4章では,プレカット工場とその前後工程-構造・生産設計,木材の流通・管理,墨付け・加工工程,出荷・現場建方-の各段階について,工場I~IV類型ごとに生産管理の状況と工程・組織上の分担関係,情報伝達などに関連する技術要素について現状分析を行った。 全般的には,I・IIの生産規模が大きなラインでは,工程が細分化されるに従って,品質管理をはじめとする管理技術が浸透する方向にあり,ロットとのバランスを見出しつつ,企業努力によって安定化の方向にあるとの印象をうけた。一方,IVを中心とするタイプでは,生産効率という側面だけではなく,生産システム統合化のための有カな支援手段としての期待も大きいが,それを裏付ける資料の提示は,今回の調査では十分とはいえない。今後の重点的な研究課題として継続発展させたい。
  • 伊藤 延男, 西浦 忠輝, 安藤 直人
    1986 年 12 巻 p. 375-383
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     歴史的住宅建築の軸組(framework)の基本である柱(column)とぬき(batten)のくさび締めによる接合部(joint with wedges)の強度特性を調べ,又,実大の軸組の水平せん断耐力試験(horizontal shearing test)を行い,相互の関係の解析も行った。 くさびの材質,形状とぬき接合部の強度性状との関係についての実験から次の知見が得られた。(1)通常の短形くさび(nomlal short type wedges)の場合,接合部に対する荷重はくさびとぬき材への部分圧縮応力(local compressive stress)として作用するので,くさびの材質(圧縮強度)がぬき接合部の強度に大きく影響し,ヒノキ(Japanese cypress)に比べてケヤキ(zelkova)で約30%,プラスチックでは約50%強度が上昇する。(2)長型くさび(long type wedges)は初期固定時の締まり具合は大きいが,荷重に伴う変形時に,くさびと柱材,くさびどうし,くさびとぬき材の間でスベリ現象が起こる結果,通常短型くさびに比べて,強度的に優れているとは言えず,荷重解放時の復元性,即ち耐久性では劣る。このことは繰り返し変形試験により明白となる。実大軸組水平せん断試験の結果次の知見が得られた。(1)せん断耐カはくさびの材質によって,ヒノキ<プラスチック<ケヤキの順にわずかに大きくなるものの,耐力型(bearing wall)として壁倍率(wall bearing ratio)を評価する上ではむしろ差はないと見なし得る。(2)繰り返し加力の影響は最大荷重の45%まではほとんど認められないが,60%を超えると顕在化する傾向が見られる。ぬき接合部についての部分実験と軸組のせん断実験の結果を比較すると,本軸組の剛性がが極めて低いために,軸組のせん断耐力を過大評価していることが明らかになった。構造体としての耐力を評価する上で,比較的柔らかい(flexible)本構造のようなケースではさらに一層の検討を要する結果と言える。
  • 福島 駿介, 小倉 暢之, 屋比久 祐盛, 山里 将樹
    1986 年 12 巻 p. 385-394
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は沖縄における民家の発展過程を木工技術に着目し,歴史的,地域的背景との関わりにおいて総合的に明らかにしようとするものであり,これまで沖縄の文化史の中で断片的に扱われてきた木工技術を中心とする民家の発展過程に少しでも脈絡を与える事を意図している。本章は7章よりなるが,第1章「研究の目的と背景」では琉球王朝の中国及び日本との関わりと,その政策的背景の歴史を概観し,第2章「調査概要」で実地調査の方法,対象を説明している。第3章「民家形態」では沖縄において穴屋と貫屋が相互に関わり合いながら発展してきた様子を述べ,日本本土との長い影響関係の中で定着した貫屋技術について沖縄の風土に対する独特な構法的,形態的対応の様子を明らかにした。第4章「木工技術の継承」では沖縄の木工技術と職人の歴史は中国よりむしろ日本本土との交流に負うところが多い事,そしてその関係もかなり古く遡り得ることを明らかにした。又,沖縄における様々な構法的特色について述べている。第5章「建築材料」では大径材の不足する沖縄における行政的努カの過程と用材入手の歴史的,地域的な経路について述べ,又,木材入手の困難さと経済的要因に対応して用材確保と耐久性増加のための工夫がなされている事を明らかにした。第6章「建築儀礼と生産組織」では,沖縄においてみられる様々な建築的仕来りに,構法における場合と異なり,中国の風水等の影響が強く表われている事,そして沖縄における結組織とその建築生産過程への関わり方について明らかにした。
  • 浦 良一, 下河辺 千穂子, 荻原 正三, 林 泰義, 山田 晴義, 東 正則, 川嶋 雅章, 竹下 輝和, 菊地 成朋
    1986 年 12 巻 p. 395-405
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は日中建築技術交流と農村建設の現状把握のために中国建築学会の協力を得て浙江省寧紹平原の農村(1郷・4村・1農場)をえらび,1984年9月4日~15日におこなった調査をもとにすすめられた。 研究の視点を①各地域における農村住宅型の発展過程,②地域施設整備の課題,③村鎮建設計画制度の展開状況を明らかにすることにおき,これまでの調査研究①との比較において問題点の明確化をはかった。 1.農村集落計画制度について 中国政府は全国の農村建設に対して,基本的事項を指導し,原則的な法規を定め,技術交流をさかんにする役割を果している。 2.集落土地利用計画について 農業生産の発展と農村における工・副業の発展に対応して積極的に土地利用の転換をはかり,集落改造をおこなっている。集落の土地利用計画では,建設用地を設定しスプロール化をふせいでいる。また,集落改造では,伝統的景観や水郷的景観の保全につとめている。 3.農村住宅と住まい方について 住宅の全体的な機能構成が不明瞭なまま,住宅の規模拡大がおこなわれている。次に住宅空間の改善に応じた住み手の「住みこなし」の醸成が必要である。また,設備改善のおくれ,宅地規模とその有効利用の問題などが指摘される。 4.農村地域施設について 施設整備の優先順位は必ずしも経済力の大小とは関係しない。医療施設の利用では,都市に近い地域の農民がより質の高い医療を選択するようになり,施設立地の段階性の崩れがみられる。施設の整備水準のおくれ,合体施工の施設が多いことが指摘できる。今回の調査では調査の不備,裏付け資料の不足,分析の不十分な点もあり,次年度での補完調査に待つところが大きい。
  • “中国黄河流域の窰洞式民家考察その3”
    青木 志郎, 宮野 秋彦, 茶谷 正洋, 江崎 陽一郎, 稲葉 一八, 楠本 侑司, 八木 幸二, 中沢 敏彰, 水谷 章夫, 八代 克彦, ...
    1986 年 12 巻 p. 407-419
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は,その1(No.8118),その2(No.8218)に続き,中華人民共和国黄河流域の伝統的住居形式である窰洞集落を対象に,実測調査をもとに,その実態と居住様式を明らかにすることを目的とする。これまでの研究経過を総括すると,第1年度(1981年7月‐8月)は窰洞住居を,第2年度(1982年12月‐1983年1月)は窰洞集落を対象に,その実態と居住様式を明らかにしてきた。地域は黄河中流の3省(甘粛省・陝西省・河南省)を中心としている。窰洞の基本形式は,地中に穴を穿つ建設方式であるため,自然災害に対して大規模な改修を行うことができず,放棄埋め戻し,崖面の後退など新しい場所への作り替えが行なわれることになる。そのため,年代を経過した窰洞の変容実態を求めにくい。また,生活の近代化による地上家屋への住み替えも増す傾向にあり,これらに対して通時的視点を有する調査研究が課題となる。また,窰洞住居は冬暖かく,夏涼しい省エネルギー住居であることが確認される反面,採光,換気,除湿等の環境面での問題をかかえており,その研究改良のため中国側から特に共同研究の要望が寄せられている。以上から,第3年度に当たり,次の点に主限を置き調査を行なった。 1)前回までに訪れた集落を中心に,その変化の様子を記録するとともに,通時的視点に立った窰洞住居における居住様式の把握 2)窰洞単体内外における温湿度,照度,残響時間等の居住環境調査及び土質調査 3)主要窰洞分布地域のひとつである山西省における実測調査 4)ビデオ撮影及び各集落俯瞰写真の撮影による調査 本報告は,1984年4月-5月に行った日本側延べ16名による調査のうち,特に大きな成果の得られた上記1),2)についての調査を根幹とするが,その後行われた環境調査(1985年1月‐2月)及び1985年度春期の調査成果も一部含まれている。
  • 団欒の場としての茶の間を中心とする住まいを見直そう
    平井 聖
    1986 年 12 巻 p. 3-12
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
  • 青木 正夫
    1986 年 12 巻 p. 13-61
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
  • 栗田 靖之
    1986 年 12 巻 p. 63-73
    発行日: 1986年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
feedback
Top