1987 年 13 巻 p. 77-88
本研究は前2年度に続くもので,北陸地方における農家住宅の発展過程について,藩政期におけるその原初的形態から,現代農家住宅に至るまでを,体系的に捉えることを目的としている。本年度は石川県を対象としているが,石川県の農家住宅は加賀地方と能登地方によって大きく異なる。さらにそれぞれの地域において細分化された型形式をもつ複雑な農家住宅型の分布を示しているが,本研究の結果,それぞれの型の規定とその発展過程を,具体的に平面図及び構造図を採集することによって,ほぼ体系化することができた。とくに本研究では,それぞれの型分類及び発展過程の体系化において,住宅構法に注目してきたが,平面構成はそれぞれの地域において時代別,階層別に著しく変容するのに対して,住宅構法の原理は比較的安定的に推移するために,とくに住宅の型分類においては有カな手段になりうることが示された。また,3ヵ年にわたる研究の結果を要約すると,1.北陸地方における農家住宅型はきわめて複雑に分布するが,それぞれの型の特色とその発展過程および型相互関係を体系化することができた。2.農家住宅の発展は「ザシキ」空間,および「ドマ」を中心とする日常生活空間の充実を軸として展開する。その構成原理には一定の法則性が見い出されるとともに,住宅の方向性-妻入りか平入りかによって大きく異なる。 3.農家住宅の発展は基本目的にはその経済水準,すなわち居住者の住要求の発展とその地域の伝統に規定されるが,一方住宅構法上の制約条件と住宅平面形式上の発展法則には密接な関連性がある。従って住宅構法上の制約条件が解放されたときに,住宅計画上の自由度は飛躍的に拡張される。4.住宅内から農作業が分離されるようになった1960年代以降,農家住宅はさらに大きく変容する。それは接客格式空間と日常生活空間双方の充実と分離として定式化できるとともに,地域の伝統様式に根ざしつつ,新たな現代農家住宅様式が確立しつつあることが示される。