抄録
本研究は,1)京都都心部において,2)いわゆるインナーシティ問題の進行を防止するために,3)良好な住環境と良質な世帯向賃貸住宅を供給・整備できる可能性を,4)土地・家屋所有者の資産運用メカニズムの調査を通して解明することである。このような良質な民間住宅を更新・供給していくには3つの経路が考えられる。第1は比較的まとまった敷地規模の,幹線道路に面した高層高容積建築が可能となる敷地条件を持った場合の住宅供給である。第2は敷地規模が比較的小さく前面道路も狭く,したがって高容積建築が周辺市街地にトラブルを起こし易い場合の住宅供給である。基本的に戦前の道路・市街地形態を引継ぐ京都市内では,現在もこの第2ケースが支配的で,建築基準法上は合法でありながら周辺の町並み景観を破壊するワンルーム賃貸アパートが主流である。したがって本研究では第1部として,資産運用面からみた「京都らしいハウジングマナーを身につけた,環境担保型の,定住できる世帯向賃貸住宅」の供給条件の検討を行い,融資条件を始め資産運用行動特性を踏えた住宅供給システムの枠組みを整理した。第3のケースは,敷地条件が第2ケースと同じかそれ以下あるいは裏宅地といったもっとも困難な条件下にあり,かつ借地・借家という所有関係にある場合の民間住宅の更新・供給である。第1,第2のケースは比較的権利関係が単純な場合が多いが,この場合は借地・借家権者との合意が住宅更新・供給の前提となり,極めて複雑かつ困難な対応を追られることになる。非戦災都市・京都市は全国的にみて異例といえるほど多くの戦前借家を抱えており,かつ戦前借家=高齢者問題ということもあって,この第3のケースの検討は不可欠である。したがって本研究では新たに第2部として「戦前借家の経営と居住に関する調査研究」を付加え,(1)戦前借家の居住世帯とりわけ高齢者世帯を対象として居住実態と今後の住要求を明らかにし,(2)家主に対しては,資産運用を通してみた借家経営の現状と地代家賃統制今廃止後の経営方針を調査した。