住宅総合研究財団研究年報
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子供の個室保有が自立の発達と家族生活に及ぼす影響(2)
日米比較研究
北浦 かほるRoger A. HartMarilyn Schlief田丸 満用田 洋江
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1989 年 15 巻 p. 173-193

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抄録

 自立が達成されるということは他者との関わりで自己をいかに守るかであり,自己との関わりで他者をいかに認めるかである。すなわちM.Wolfの言うprivacyの概念にあたる。自立は個人主義文化を基盤とする米国と日本では違った様相をみせて展開しており,その達成は空間の物理的状況や扱い方,そこでの生活,管理の主体等とも深く関わっている。本研究は予備研究結果から構築したキーワードを中心にプライバシー意識の確立状態をみることで,空間が子供の自立達成にどう関わっているかを追及した。子供室空間で日米差の最も大きかったのは,子供室の「Management」であった。同じ「親管理」グループといっても米国では日本に比べて親の管理が非常に少なかった。個人の場とその取り扱いは米国では個人主義思想の基本にかかわる事項であり,社会的にも低年齢時から躾られている。そのため子供室の管理は4~6thで段階的に達成され7~10thでははとんど子供の手で行なわれている。 それに対して日本の子供室は子供の存在を保障する場となっていない。子供室が「親管理」下にあることやそこで豊かな生活が行なわれていないことに起因する。世話のニュアンスの強い「世話型」管理ともいえる親子関係が母子密着の状況を示している。親は子供を世話するために常に「見る」必要が生じる。親子の場の共有が必項の条件となり,個人のプライバシー尊重が邪魔に感じられるようになる。「見る」ことは管理の根幹に通じている。以上,日米の文化差を背景にして考えると,米国のように空間が自己のプライバシーを保障する場として使われている社会では,文化が条件を整えているが故に,「空間」の効力は働かない。しかし日本のように空間が自己のプライバシーを保障する場として使われていない社会では「空間」の影響力は大きく及び,プライバシー意識の発達を助ける。また米国のように基本的にプライバシーが尊重された文化の下では「空間」は,そこに達成されていない,より高度な,対人関係におけるプライバシー意識を助ける力として影響していることがわかった。

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© 1989 一般財団法人 住総研
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