住宅総合研究財団研究年報
Online ISSN : 2423-9879
Print ISSN : 0916-1864
ISSN-L : 0916-1864
15 巻
選択された号の論文の25件中1~25を表示しています
  • 伝統的日本住宅から現代の住宅に至る住宅様式
    中川 武, 鈴木 恂, 渡辺 仁史, 嘉納 成男, 須藤 諭
    1989 年 15 巻 p. 73-83
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     日本の庶民住宅は,その構造が伝統的に木造で終始してきたこともあって残りにくく,中世以前の遺構はほとんど皆無であり,日本の住宅史を理解するためには,文献や考古・美術資料や社寺建築などから類推して各時代の住宅像を復元することによって,住宅史のイメージを描いていくという手段によらざるを得ない。そこで本研究は,日本における住宅の歴史を,まずイメージとして定着させることを主眼として,特に初学者や一般の人びとに対して簡潔に伝えることのできるように,映像によって教材を試作開発することを研究の目的とした。映像化の方法として,①構成案(シノプシス)の作成。②シナリオの作成。③オリジナルテープ素材の作成(撮影)。④アドレスコード及ぴワークテープの作成。⑤オフライン編集。⑥編集用データの作成。という作業を行ないながら,制作のための検討を行なった。試作教材として許される映像作品の時間は15分であり,視聴者に理解させる項目を以下のようにポイントを設定して構成した。 1)都市形成の歴史と居住階層により造られてきた日本住宅 2)日本住宅に見られる多様性 3)現代日本住宅を理解するための特質 4)特質1・門と玄関構え・日本人の住宅の理想像 5)特質2・床形式の多様性・覆物を履き替える習慣・土間,板床,座敷・北方系と南方系文化の継承 6)特質3・和室のシステム・書院造り・座敷の多目的な利用・座敷の道具 7)特質4・内部と外部の関係・庭園と室内の関係・自然を引り取り内部化する技法・内部と外部の曖昧な日本的中間領域・露地と茶室の関係 8)現代住宅と都市問題。 以上に関して報告書の中では,構成案,シナリオ,編集用データ,構成される映像のスチル写真,を収録した。 また,当研究グループは建築分野の映像化を推進する「日本建築画像大系」の編集委員会に参加しており,本研究はその中のテーマの1つとして位置づけられるものである。本研究は,継続して(その2)研究,報告された成果に基づく映像制作に入っている。次年度は完成作品として成果報告される予定である。
  • 体験記述にもとづく日本住居現代史と住居論
    鈴木 成文, 小柳津 醇一, 畑 聰一, 初見 学, 在塚 礼子, 友田 博道, 長沢 悟, 曽根 陽子, 笠嶋 泰, 戸部 栄一, 小林 ...
    1989 年 15 巻 p. 85-96
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     住居は,地域により時代により一定の「型」を形成するのが常である。日本においても近世までは民家及び武士住宅に明瞭な型があり,近代以降も形を変えながら存続した。その「型」の急速な崩壊が起こったのは,戦後期,特に高度成長期である。本研究は現代の日本住居の「型」の崩壊と新たな「型」の生成の過程を,研究者自身の居住体験記述に基づいて描き出し,これをもとに現代住居の「型」を住様式と関わらせて論ずるものである。これは居住者の視点に立って住居史を捉え直す試みでもある。研究対象として,40余例の時代と地域の異なる多様な住居が得られた。それらはまた,長期間はとんど手を加えられずに住み続けられた住居,頻繁に増改築がくり返された住居,短期間のみ住まれた住居など,人生との関わり方も多様である。「型」については,本研究の主題である住居の全体像としての「型」が崩壊する中にあって,継承され,あるいは新たに生まれる部分的な住様式の型,さらには特定の個人や家族が住居を移り住む過程の中で継承される住み方の型が見出された。主な考察の対象は,戦前の「型」である中廊下型から現在の都市近郊の戸建住宅の典型,即ち1階に洋風LDKと和室,2階に個室,それらを玄関ホールと廊下で結んだ型に至る過程である。住み方や増改築によって居住者自身が新しい住様式の導入に方を注いだ例,しかし生活習慣の強さがそれを押し戻す例,一方,戦後の新しい住宅の型に規制された生活を余儀なくされた例,それらへの専門家や供給側の計画的な関わりなどの記述の中から,この現在の典型を,中廊下型以来の廊下による諸室の結ぴ付けを継承しつつ,和と洋の葛藤,機能の分化と重ね合わせの葛藤を含みつつ生成している型として読み取ることができた。体験記述による方法は,住様式を変化させる力と継承する力の対立の中で「型」の崩壊と生成が進む過程を,内側から動的に描き出すのに適している。
  • 平井 聖, 内田 青蔵
    1989 年 15 巻 p. 97-108
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     日本人の食事形式は,近代化が急速に進んだ明治期以降,膳から食卓ヘ,食卓から椅子・テーブルヘと変化しています。膳とは,銘々の前に食器をのせて運ばれる膳,あるいは銘々の食器を納め,食事の時には食器をのせる台になる箱膳を指します。膳の場合には,家族が1室に会して食事をする場合もありますが,江戸時代には主要人物にはその居室まで膳が運ばれていました。食卓とは,家族が1室に集まり,1つの食卓のまわりに座って,食卓の上に銘々の食器を並べて食事をする形式です。椅子・テーブルとは,洋式のテーブルを使用して食事する場合で,椅子とテーブルを使いますが,1室に集まり,テーブルのまわりの椅子に座り,テーブルの上に銘々の食器を並べて食事をしますから,基本的な考え方としては食卓の場合と変っていないと言えるでしよう。これらの変化のうち,重要な意味をもっているのは膳から食卓への変化ですが,明治から昭和にかけて書かれた家庭小説等の中では,明治30年代にこの変化がはじまります。このような変化の担い手は,都市におけるいわゆる中流階級の俸給生活者たちと考えられますので,このような階層の一端を構成した蔵前工業会の会員にアンケート調査をしました。さらに,地方において同様な階層を構成したと考えられる例として,秋田県大館市の県立大館中学校(新制度で県立大館鳳鳴高等学校となる)の卒業生,東京の山の手における例として青山師範学校附属小学校(新制度で東京学芸大学附属世田谷小学校となる)の卒業生に対して行なった同様のアンケート調査の結果を比較しています。その結果,蔵前工業会員の場合と大館中学校卒業生の場合には,経年的変化にそれほど顕著な相違は認められませんが,東京山の手における特定の階層に限定した場合には,それらにくらべてさらに変化の時点が早いという特徴が認められます。
  • 青木 正夫, 坂本 磐雄, 黄 世孟, 江上 徹, 郭 永傑, 中園 真人, 金澤 陽一, 村木 洋一, 文 一智
    1989 年 15 巻 p. 109-124
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     台湾の伝統的農村住宅は三合院と称される形式が典型であるが,農村の近代化による家族関係・農業生産の変化等により,近年では農村集落・住宅は大きく変化している。また戦後の経済成長による都市への大量の人口流入により,都市住宅も従来の街屋と呼ばれる伝統的低層住宅から中高層の集合住宅へと移行し,アメリカ文化の影響の下で新たな住居形式が生まれ,今日では都市住宅の1典型となっている。本報告はこうした台湾における農村・都市住宅の変化の実態をとらえ,住様式の伝統性の継承と発展方向について考察したものである。主な知見を以下に記す。①三合院住宅は大家族の生活の場として生み出された住居形式で,その空間構成は風水思想の「生気観」や「位序観」に強く規定されたものであるが,世帯や財産の分離が進行し,今日では三合院の分割や部分的建替え,農地転用による新築等が行なわれ,従来の集落空間構造や住居形式は変化している。特に新築住宅は大半がRC造,2・3階建てになり,平面構成も多様化し,変化が著しいが,庁を中心とした構成原理は継承されている。②都市住宅は,伝統的街屋を源流とする菜刀型や透天さく形式の中層住宅が生まれ,地方都市における都市住宅のプロトタイプとなる一方,大都市では国民住宅や民間分譲マンションに代表される公私室型住宅が,都市集合住宅の典型となっているが,入口から直接庁につながる構成は共通しており,庁の前面配置の原則は保持されている。③このように今日の台湾の農村・都市住宅は多様化の方向にあるものの,庁を中心とした平面構成という点では共通しており,このことがアメリカ型の公私室型住宅の普及を支える要因となっているものと考えられる。しかしまた一方では都市・農村ともに「はきかえ」が普及し,玄関や畳居室を持つ住宅も現われ,関連して起居様式の面でも床座を行なう世帯が少なからず存在する等,日本の住様式の合理的側面が受け入れられている。
  • ソウルに現存する旧営団住宅を中心にして
    冨井 正憲, 鈴木 信弘, 渋谷 猛, 川端 貢
    1989 年 15 巻 p. 125-134
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は,かつて日本の統治下にあった朝鮮半島に建てられた朝鮮住宅営団の住宅がどのようなものであったのか,またそれらの住宅がその後韓国人の住み手によってどのような変容を遂げたかを,史的文献調査と実測調査によって明らかにし,①朝鮮住宅営団の慨要,②朝鮮半島と日本内地の旧営団住宅の比較考察,③旧営団住宅の変容過程の分析,の3つの枠組みをもって住まいの持つ特性を明らかにすることを目的としている。第1章では朝鮮住宅営団の概要を,第2章では現在の旧営団住宅の現存状況,上道洞営団住宅地及び住宅の現況を,文献・現地調査・実測・写真撮影等により明らかにし,伴せて旧営団住宅地の復元を試み住宅の現在の平面図を図化するなど,分析・考察の資料を調えている。また,文献資料より朝鮮住宅営団が建設した住宅には甲・乙・丙・丁・茂の5種の標準設計があったことをつきとめている。そしてソウル上道洞に現存する営団住宅の実態調査の分析とあわせて,その建設当時の営団標準住宅を復元している。第3章では,日本住宅営団・同潤会の標準設計と,朝鮮住宅営団の住宅を比較考察し,オンドルや二重窓その他の気候風土に対する改良が試みられている部分と,外観や平面構成などの日本内地の住様式が踏襲されている部分があり,日本人の気候風土に対する対応のしかたを明らかにしている。そして,それが戦後韓国人によって住まわれてどのような部分が変容し,どのような部分が存続しているかを明らかにし,日本時代に建てた住宅が韓国人の住み手によって韓国の居間中心型の伝統様式に改められてゆく傾向があることを指摘している。
  • 八木澤 壮一, 野田 正穂, 中島 明子, 竹田 喜美子, 松沢 喜美子, 中野 佳枝, 山根 慎治, 猪俣 均
    1989 年 15 巻 p. 135-148
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は第2年度の継続研究である。第1年度において文化村の開発から現在に至る基本的な構造について把握したが,さらに文化村の全体像に迫るため,本年度は7テーマにわたって研究を進めた。まず第5章では改めて本研究の性格づけを行なっている。地域とは外部要因と内部要因の複雑な絡まりによって成り立っているが,こうした地域研究の1つである本研究では,研究の特質を,①地域性②多角性③密着性④持続性の面から述べている。第6章は3節から成り立っている。第1節では土地の所有関係から文化村の土地買収の経過を詳細に分析している。土地買収が大正3年から行なわれたこと,土地の所有関係の変遷は堤康次郎,箱根土地の関係から8 つのパターンに分けられることが明らかになった。第2節は分譲から昭和61年に至る土地所有関係の変化を追っている。土地売買については戦後に際立って多く行なわれた。第1節では土地と建物を合せてその権利関係を分析している。第7章は「目白文化付」周辺地域の開発について,大正10年に建設された東京府住宅協会の住宅151戸と,翌年行なわれた近衛邸の開放について,箱根土地との関連で展開している。第8章は昭和15年時点での居住者階層について新資料によりまとめ,また戦争中の暮らしについて居住者組織の関連で述べている。第9章では住宅平面の復元方法について述べ,さらに当時の文化付が外観においてはかなり洋風化が進んでいたことを明らかにしている。第10章では文化付にみられる洋風住宅の様式・デザインからイギリス,アメリカの郊外住宅の影響について分析した。第11章では文化付の環境保全の住民運動をとり上げ,今日の良好な環境保全が住民の主体的努力によっていることを評価している。
  • 西 和夫, 津田 良樹
    1989 年 15 巻 p. 149-162
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     昨年度に引き続き,上越市中ノ俣とその近隣の能生谷およぴ愛媛県二神島の集落・民家の調査を行ない,集落の空間構成および民家の様相についてさらに分析を進めた。また,生活習俗についても検討を加えた。中ノ俣の集落は,中ノ俣川の両岸沿いに,隣家と間隔を保ちながら南北900mほどの範囲に80戸が散在している。各民家は主屋1棟のみの家屋構成が多く,主屋1棟で住空間・作業空間の諸機能を満たしていると考えられる。主屋は平均43坪ほどで,平面は方三間のチャノマを中心に上手にザシキ,奥にネマ,下手奥にナカノマ,下手に土間を配するほぼ共通した間取りである。二神島の集落は,港を中心に海岸沿いに東西500mほどにわたって150戸が密集している。各民家は主屋・ヘヤ・納屋・便所・風呂などの家屋構成が多く,諸機能を各家屋に分散させていると考えられる。主屋は平均21坪ほどで中ノ俣に比べ小規模である。主屋は「おもて6畳」「4畳半くだり」と呼ばれる2種の典型的平面をもつ。ヒノラと呼ばれる中庭を囲んで建物が建ち,中庭形式とでも呼ぶべき特色ある配置をもっている。中ノ俣の近隣集落である能生谷も中ノ俣の民家と極めてよく似た同系統の民家が分布している。この能生谷における民家の普請の様相を普請関係文書によって検討した。民家の普請はほぼ村全戸からの手伝いによって行なわれ,多く手伝いを必要とする作業は雪解けの旧暦2月から農作業が本格化する旧暦4月にかけて行なっている。また,能生谷島道の茅講では,毎年前1分芽2〆と40銭を持ち寄り,協議の上取り主を決め,組合員全員に茅が渡し終えれば講を解散するという運営が行なわれている。二神島では,飲料水を得るための共同井戸の使用範囲と小字の地区がほば一致している等が明らかとなった。
  • 桐敷 真次郎
    1989 年 15 巻 p. 163-172
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     イタリアは,その地中海地域における地理的位置およぴ歴史的地位のいずれから見ても地中海文明の中心である。その住居文明は,ローマ帝国時代に全地中海地域の建築遺産を総合し,ルネサンス時代以降400年にわたってヨーロッパの住居に影響を与え続けた。このような重みを持つイタリアの住宅文化の遺産の特性を,歴史的かつ現代的に簡潔に捉えようとするのが本研究の目的である。 しかし,地中海地域の建築は,アルプス以北の建築のように理詰めの建築ではない。それはヨーロッパ文明の母胎にふさわしく,雄大かつ包括的で,北欧の建築が絶えず変化と発展を追い求めるのに対して,常に根源的かつ永続的な価値を保持しようとする。北欧の建築はかつてゴシックという構造の冒険を追い,やがてルネサンスという建築の母胎へ帰ったように,20世紀には近代建築という機能と構造の冒険を試み,いままたポストモダンという建築の母胎に帰ろうとしている。このような地中海建築の本質を,北欧的な発想にもとづく現代の科学的評価や判断の枠に入れることは難しい。そこで,理詰めと常識の住居を代表するイギリス18世紀のテラスハウスを歴史的に最も完全な住居システムとみなし,その特性を判定基準として,それらからイタリア住居の特性を判定してみようとした。その結果,イタリアの住用は基本的に地中海の古代建築およぴイスラム建築の伝統に則る標準スペースの3次元的連結を構成原理としたカスバー的構成を持ち,街区そのものを建築ユニットとする構想を包含していることが明らかとなった。イギリスのテラスハウスは,広場,街路,街区を主要素とするイタリアの都市構成の長所およびイタリア・ルネサンスの建築原理を導入し,同じように街区そのものを建築ユニットとする構成を案出したが,その中での各住戸の独立性・自立性を計り,また各住戸内部で各室の独立性をより強固に主張した点がイギリス的であるということができる。また,それこそイギリスのテラスハウスが近代に至って挫折したのに対し,イタリアの住戸が今日も伝統的性格を保持している理由でもある。
  • 日米比較研究
    北浦 かほる, Roger A. Hart, Marilyn Schlief, 田丸 満, 用田 洋江
    1989 年 15 巻 p. 173-193
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     自立が達成されるということは他者との関わりで自己をいかに守るかであり,自己との関わりで他者をいかに認めるかである。すなわちM.Wolfの言うprivacyの概念にあたる。自立は個人主義文化を基盤とする米国と日本では違った様相をみせて展開しており,その達成は空間の物理的状況や扱い方,そこでの生活,管理の主体等とも深く関わっている。本研究は予備研究結果から構築したキーワードを中心にプライバシー意識の確立状態をみることで,空間が子供の自立達成にどう関わっているかを追及した。子供室空間で日米差の最も大きかったのは,子供室の「Management」であった。同じ「親管理」グループといっても米国では日本に比べて親の管理が非常に少なかった。個人の場とその取り扱いは米国では個人主義思想の基本にかかわる事項であり,社会的にも低年齢時から躾られている。そのため子供室の管理は4~6thで段階的に達成され7~10thでははとんど子供の手で行なわれている。 それに対して日本の子供室は子供の存在を保障する場となっていない。子供室が「親管理」下にあることやそこで豊かな生活が行なわれていないことに起因する。世話のニュアンスの強い「世話型」管理ともいえる親子関係が母子密着の状況を示している。親は子供を世話するために常に「見る」必要が生じる。親子の場の共有が必項の条件となり,個人のプライバシー尊重が邪魔に感じられるようになる。「見る」ことは管理の根幹に通じている。以上,日米の文化差を背景にして考えると,米国のように空間が自己のプライバシーを保障する場として使われている社会では,文化が条件を整えているが故に,「空間」の効力は働かない。しかし日本のように空間が自己のプライバシーを保障する場として使われていない社会では「空間」の影響力は大きく及び,プライバシー意識の発達を助ける。また米国のように基本的にプライバシーが尊重された文化の下では「空間」は,そこに達成されていない,より高度な,対人関係におけるプライバシー意識を助ける力として影響していることがわかった。
  • 特に幼児と高齢者のいる家族の場合
    渡辺 圭子, 山本 和郎, 石原 邦雄, 高橋 博子, 山内 宏太朗
    1989 年 15 巻 p. 195-206
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     住宅の質を問題にする場合,安全性・利便性・健康性・快適性など居住の向上が求められるが,同時にそこで生活する家族のライフサイクルの各段階ごとに生ずる二ーズに対応しているか,また,その二ーズに適合した環境整備をどのように整えるべきかの検討が今後の大きな課題である。特に,住環境の直接的な影響を心理的,身体的,行動的に受ける幼児,高齢者およびその家族と集合住宅との関係は,社会的な問題として取り上げられていながらそれに答えるに足る研究結果はこれまで適切な形で示されていない。本研究は,住環境の評価を居住者の家族のライフサイクルとの適合に求めることで,従来の研究より居住者の生活実態に迫った分析を行なう。集合住宅,特に高層住宅における幼児の行動制約による心身発達への影響,および,高齢者に特有の心理や生活構造に関連した環境適応の問題を明らかにすることは,住宅設計への具体的な提言を可能にするだろう。本課題は2年間の継続研究である。本年度は主に,家族と住まいに関して家族社会学および環境心理学の視点から検討するとともに,山本・渡辺らのこれまでの集合住宅の居住者の心身健康に関する一連の研究をライフサイクルの視座から見直しを行ない,さらにこれまで欠落していた高齢者に関する研究を追加した。今回の調査研究では,幼児を育てている家族および高齢者の双方とも,デプスインタビュー(depthinterview)の方法によりきめの細かい集合住宅についての二ーズとトラブルを聞さ出し,さらに観察法を加えることにより問題の所在を突き止めた。継続研究では,この結果をもとに仮説を設定し,大サンプルにおいて質問紙法を中心とした社会調査を実施し,より一般化しうる結論を導くつもりである。なお,この研究では心理学,社会学と建築学,住居学の専門家が共通の問題意識のもとに学際的共同研究を行なう。特に,環境心理学,コミュニティ心理学,家族社会学の知見は,住環境設計をより人間居住の場として質の高いものにするのに役立つと考える。
  • 施設類型についての検討
    小滝 一正, 林 玉子, 児玉 桂子, 萩田 秋雄, 大原 一興
    1989 年 15 巻 p. 207-217
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     有料老人ホームは,各種のサービスを伴う老人向け高級集合住宅として捉えられるが,その計画は現状においては経営上の条件が優先される傾向にある。建築計画面での蓄積は極めて少なくてさまざまな問題を残しており,建築計画的研究が求められている。また,一般に有料老人ホームは,入居費用が高額であるという問題はあるものの,施設・設備の質の高さ,各種のサービスの提供,居住者の生活意識の高さなどの点で,今後の高齢者住宅一般のありかたを検討するうえでのひとつのモデルになりえよう。そこで,本研究では,有料老人ホームを研究の対象に取り上げ,計画の指針を得るための基礎的研究段階として,まずは施設類型を探ることを目的としたい。既存統計資料の分析に若干の実地調査を加えて,以下のような8つの施設類型を見出した。ⓐ病院を伴設し,かつ介護対処を重視する型,ⓑ介護は施設内でするが,費用を別途徴収する型,ⓒ大規模で施設内容が充実し,介護対処や医療対処体制をもつ型,ⓓ病院伴設であるが,介護対処よりも施設設備を充実して生活を重視する型,ⓔ医療・介護対処よりも,入居者の自律的生活に重点を置く型,ⓕ古く小規模で入居費用が安いが,施設設備やサービスが万全でない型,ⓖ施設設備は中程度で,終身保障方式の施設型,ⓗ介護専用の型。これらのうち,ⓐ病院伴設介護対処型,ⓒ大規模総合型,ⓔ生活重視型,ⓗ介護専用型が,明快な特徴をもつ施設類型といえよう。また類型軸をまとめると,①施設規模の大小,②運営方針(生活重視の度合),③病院伴設の有無,④介護専用か否かと,大きく4つの観点がある。これらはいずれも建築計画において計画目標の設定を左右する要因であり,計画指針を検討する上で重要である。当初に予定した居住者の住まいかたと住意識の実態把握には至らず,今後の課題とした。
  • 谷村 秀彦, 岩崎 駿介
    1989 年 15 巻 p. 219-230
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は住宅地計画における文化的要因を探求することを動機として,住宅地の同質性・異質性に着目した。異質性自体も土地利用や住宅の形態といった目に見えるものから,血緑や社会階層といった目に見えないものまでさまざまな局面で異なる意味合いの異質さが存在する。今回は最初の試みとして,データ入手や評価が容易な土地利用の異質性を計測・比較を行なった。しかしながら空間的な同質性・異質性については数量的な研究の蓄積が少ない。そこで同質性・異資性の慨念を,地理学の分野で空間統計として発展した“Spatial Autocorrelation”の理論的な展開を踏まえながら整理した。さらに既住の研究成果をもとに,①固有ベクトル:同種用途により縮約された隣接行列の最大固有値の固有ベクトルによる均衡面積配分と実際の面積配分の相関係数,②エントロピー:隣接関係のエントロピー,③join法:隣接の回数の標準偏差,④リング法1:半径rの円周上の異種用途の存在確率,⑤リング法2:半径rの円周上の用途比率と円向の用途比率の距離,の5つの尺度の下で仮想的な分布パターンをメッシユデータ上に構築し指標を適用・比較した。以上の結果をもとに土地利用用途の混在の同質性・異質性を韓国全州市・下代田区番町の2地域で計算し,それぞれの地域の用途混在のパターンが異なることを明らかにした。番町の混在パターンはjoin法のcorrelogramからランダムな混在パターンに近いことが示された。全州の住宅地はリング法による敷地別の異質性の分析から,路線型の混在パターンであることが示された。
  • 三村 浩史, 安藤 元夫, 阿部 成治, 北条 蓮英, 角谷 弘喜
    1989 年 15 巻 p. 231-242
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     インナーシティ地域では,業務・商業用空間利用が優越し居住利用が圧迫排除される傾向が強まっている。そのなかで,居住人口・維持・回復を都市政策の目標とする地域において,居住用空間を確保するために,都市計画上の規制と誘導の諸手段,とりわけ三次元的制御手段=立体ゾーニングの可能性と条件について考察した。まず,報告書の第I部では,都市計画的制御手段のシナリオ構築を行なった。すなわち,①居住用空間の確保を必要とする理由,判断根拠と対象範囲等の設定について,②各種誘導規制手段の活用可能性と立体ゾーニングのシナリオ作成,③確保する空間における住戸と住環境の要素とその保障水準の設定,および④高価格化,投機利用および他用途への転用等の非居住空間化を抑制する方策という4つの検討項目を設定し,これらの項目に関するわが国および海外の都市(再)開発に伴う住宅供給義務や規制緩和等の事例や学説と照合しつつ,シナリオの論理的構築度を高めた。ついで第IIおよびIII部では,個別もしくは小単位敷地ごとに建設されている集合住宅いわゆるマンション群を対象として,居住用空間の設置状況,形状,採光・日照条件,伴用・混用状混の実地分析を行なった。開発当初から居住性の低い住戸が供給されていること,建て詰りによって居住性が低下する住戸が急増する傾向等が把握できた。並行して実施した居住者調査によって,都心マンション選択要因を解析した。第IV部では,第II・III部で把握した実態における問題点に対して,都市計画の規制誘導シナリオを適用する可能性の検討を行なった。すなわち,第1に,低層階が商業地域等であっても,中層階以上で居住系地域並みの住環境水準を保障する立体ゾーニング方式,第2に,相隣する住戸の採光等の条件について,適用の可能性を検討し,都市計画フレームの提案をまとめた。
  • 延藤 安弘, 横山 俊祐, 石原 一彦, 山田 朋来, 福田 由美子
    1989 年 15 巻 p. 243-255
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     集合住宅管理に居住者が参加することは,ハウジング生成のプロセスとその特質において「コミュニティ・コントロール」という原則の確立を意味する。このことを前年度に引き続き検討するために,今年度は,イギリスの公営住宅管理困難団地再生の仕組みを持つPEP(Priority Estates Project)を取り上げた。さらに発展したケースとして,わが国のコーポラテイブ住宅の管理過程を検討し,加えて組織研究における参加論の検討を通して,居住者参加の機能と効果について抽出した。2年にわたる各ケーススタディを束ねてみて,参加の効果と実現の条件について,論点を抽出してみると次のようになる 〈参加の効果〉 ①合理的成果の生成:居住者参加による集住体管理は,費用節約と空間の質向上と安全な居住地形成といった現実的にリーズナブルな成果が得られる。 ②手段としての共同化効果:各個人の要求の把握,情報の収集において,適確な関係が取り結ばれる。 ③目的としての共同化効果:ハードな空間の雑持・改善の効果のみならず,共同化プロセスにおいて,子育て,老後の暮らし,余暇活動などの集住ライフスタイルを創発するメリットがある。 ④パラダイム転換効果:管理についての「近代」的方法を越えて,新しい方法の開拓をもたらす。 ⑤各主体の自己実現効果:各主体の内側に,満足感・充足感・達成観をもたらし,人間の住むことの誇りを増殖させる。 〈参加の実現〉 ①「コミュニティ・オーガナイゼーション」の存在が,集住体管理における真のコミュニティ・コントロールの前提である。 ②「プロフェッショナル・サービス」の支援体制が,住民参加を促すことになる。 ③「ヒューマン・リソース」の発掘と活用が,プロセス全体を活性化させる上に重要である。 ④「仕込みの仕掛け」づくりを,ユーザー側と供給者側の両方で進めることが,きわめて重要である。
  • 山本 育三, 井上 博, 星川 晃二郎, 田辺 邦男, 藤木 良明, 須田 松次郎, 中大路 美智子, 三木 哲
    1989 年 15 巻 p. 257-269
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     1.研究の目的・調査の概要 分譲会社,分譲集合住宅(マンション)管理組合,管理会社等の性格によって,異なる管理方法,管理委託方法があることから,その実態を知り,大多数を占める委託管理のあり方を求めることを目的とする。調査は管理組合40例を対象とする管理委託業積を中心にアンケートとヒアリングによる調査A,管理会社17社を対象とする同様のアンケートとヒアリング,及び管理会社の概要を知るための統計資料分析と管理会社約200社に対するアンケート等による調査Bの分析とその考察による。 2.分析の方法 調査Aについては,各管理組合の属性・性格等による委託状態の特徴に,これまでの研究成果を加えて,管理組合側調査からみた管理委託のありようを知る。調査Bについては,統計資料をもとに管理会社の概要を知り,ヒアリング調査を中心として,管理委託の手法とその要因を分析,さらにアンケート結果を加えて管理会社側調査からみた管理受託のありようを知る。さらに,調査AとBのそれぞれの分析結果を摺り合わせることによって,委託管理のさまざまなシステムと今後のあり方を提言する。 3.調査研究・分析の結果 今日,マンションの居住者(購買者)は,立地条件,専有面積を含むマンションの居住環境,価格等をもとに購入・居住し,管理方法等は思考の外である。にもかかわらず,各管理組合は分譲会社,委託管理会社の管理システムに左右された管理を行なっており,しかもその種類はさまざまである。本研究では,その幾つかの主要な委託管理システムを明らかにし,その上で,今後のあり方を探る。しかも,多くの管理会社は,修繕工事の受注を射程に入れており,現在のマンション・ストックが大量に修繕期に入るとともに,委託管理の様相も変わることが予想される。今後のあり方も動的にみる必要がある。
  • 松村 秀一, 安藤 正雄, 藤沢 好一, 吉田 倬郎
    1989 年 15 巻 p. 271-282
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     日本での住宅生産供給の特殊性は,それを担っている住宅供給業者の多様性にあり,ある仕組みの整備や構法の改善の有効性を発揮できる可能性は住宅供給業者の属性によって異なる。従って,住宅供給業者の属性がどのように異なれば,生産供給する住宅の属性や組織上の問題点,更には合理的に適用し得る構法はどのように異なるか,このことについて明解な知見を得る必要がある。本研究ではこれを「住宅供給業者の棲分け構造」と呼ぴ,①地域の住宅需要構造の変化が,棲分け構造にどのような影響を与えるか,②棲分け構造の変化は,住宅供給業者のどのような業態変化を伴い,その変化を有効なものにするためにどのような支援体制が必要か,の2点を明らかにすることを目的としている。第1章では研究の目的・方法を述べた後,第2章の前半では,オープンデータの分析により住宅需要構造の変化の全国的な傾向を明らかにした。第2章の後半では,全国的に著しい増加が認められた3,4階建て住宅について,東京都下4区での建設実態を明らかにした上で,立地条件,建物属性を分析した。第3章では,まず上記の3,4階建て住宅の供給業者の代表として施工業者を取り上げ,その多様性を確認した上で,その類型化を試みた。次いで,3,4階建て住宅の立地条件及び建物属性を,この業者類型と関連付けて分析することにより,生起しつつある棲分け構造を明らかにした。第4章では,上記の棲分け構造の中に,業態を変化しながら位置付けつつある小規模な施工業者を取り上げ,供給する住宅の構造種及び階数の変化にどのような業態変化によって対応してきたのかを明らかにした上で,その変化に内在する組織上,技術上の問題点を見極め,今後必要な支援体制とそのための研究課題に言及した。
  • 上杉 啓, 谷 卓郎, 八木 幸二, 安藤 邦廣, 松留 慎一郎, 中島 正夫, 渡辺 洋子, 河合 直人, 斉藤 金次郎
    1989 年 15 巻 p. 283-293
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    1.中紀および紀伊田辺における近世の建築生産組織 文献史料に基づき,中紀地方の近世期における大工の状況として主に職人数の増加を明確にした。次に,家屋調査対象地区に最も近い歴史的中心として紀州徳川家附家老,安藤家所領の紀伊田辺城下を取り上げ,「田辺町大帳」等に基づき大工,左官,瓦製造,畳屋など建築生産職種の各仲間の通史的分析を行ない,性格の差異についても言及した。同城下の職人仲間は「旦那場」と呼ぶ顧客層の専有を中心に運営されている点で特徴的である。 2.建設工程と生産組織の変遷 昭和30年代には建て主による直営形式で,大工と手伝いが建設作業の中心的役割を果たしていた。現在工務店による一括請負形式に代わり,建設作業が各下職に専門化される中で,仕口が引きボルトに代わったが,土壁工法は手伝いのシステムと共に継承されている。 3.熊野灰の生産とそれを用いた漆喰工法 熊野灘沿岸に成育し「菊目石」と呼ばれるサンゴを焼成して作った消石灰(熊野灰)について,文献等による生産に関する若干の歴史的考察を行なうとともに,実地調査を行なって菊目石の分布状況,焼成釜の構造とその分布状況,製造とその供給状況,およびそれを用いた漆喰工法に関して明らかにし,更に化学的実験によりカルシュウムの量(NN指示薬を用いた直接滴定法)と存在状態(X線回折)を検出して,その特性について考察した。 4.温湿度環境からみた耐久性,居住性 御坊市下楠井地区の木造住宅の生物劣化実態調査ならびに床下,小屋裏の温湿度風速環境測定を実施した。その結果,1)75%の住宅がシロアリ被害を受けている。2)強風多雨に備えるため床下を閉鎖する結果,木材含水率が上がり被害を多くしている。3)小屋裏も閉鎖されており夏の熱気,湿気が抜けにくい構造である。4)結論的に耐久性,夏の居住性が犠牲となっている構法である,などが明らかになった。
  • 堀 薫, 貝塚 勇
    1989 年 15 巻 p. 295-304
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     この研究は,同潤会が大正14年戸に建設した西荻窪木造集合住宅と,その居住者たちの生活を報告している。報告にあたっては,時間の流れを重視している。すなわち,居住者たちが,借家住まいから住戸を所有するに至り,その後自分たちの考えで,住戸をどのように改造してきたかを,改造時期ごとに調査して,報告してある。この中から,増改築についていくつかの共通項が発見できた。1つは,居住者たちは,部屋を広くすることよりも,部屋数を増やすことに重点を置いていることである。この原因は,入居当初から,居住者に与えられた居室数が少なかったことによる。入居当初,居室数は,2または3であった。2つは,居住者たちは,主として,北側へ居室を増やしているということである。この原因は,居住者たちの嗜好に原因があるのでなく,居住者たちが住んでいる地区の地形に原因があると考えられる。この報告では,居住者の考え方を統計的に処理することよりも,それぞれを1つ1つの独立した事象として扱っていくこととした。その方が,生活面がより明確に出てくると判断したためである。ケーススタディとして掲載した居住者は,10件ある。この報告書では,その10件が,時間の流れの中で,いずれも,その居住者特有の住まい方を持っていることが明らかにされている。なお,報告書作成にあたっては,図面での表現も重視している。従って,図面上で改造の流れを把握することを希望する場合には,本論文中の図面も参照していただくことをお願いしておく。
  • 高橋 公子, 内田 茂, 小峯 裕己, 宿谷 昌則, 平手 小太郎, 田辺 新一, 岩畔 久美子, 大井 尚行
    1989 年 15 巻 p. 305-315
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は,1984年度の研究助成による「住宅空間構成手法と室内環境形成との関連性に関する研究」の継続研究であり,今回の研究ではトップライトを対象として実物大模型を用いた心理実験や,居住状態の住居における実測等により,定量的な設計資料を作成するための基礎データの整備を目的とする。 まず,日除けのあるトップライトの光・熱性能に関して,夏期,トップライトから室内に侵入する日射・昼光が室内環境に及ばす影響を実測により検討した。日除けとしてサンスクリーンを屋外,室内に設置し,トップライトが昼光および日射熱に対してどのような効果を持つかを昼光照度の日射量に対する比,すなわち発光効率を指標とした評価を試みた。結果として,①サンスクリーンを内付けにするよりは,外付けにする方が日射熱遮蔽の観点からみて効果がある。②トップライトの発光効率からみるとサンスクリーン外付けの効率は,白熱灯の効率の20倍である-等が得られた。次に,実物大模型空間を用いた被験者実験により,トップライトの面積および開ロパターン,トップライトの面積と室の天井高などの要因とトップライトを持つ空間がもたらす心理的効果との関連を調べた。その結果,①開口面積の大きいものは,価値が高いと評価された。室内の明るさ感や心地よさは必ずしも開口面積に比例せず,開口面積が小さくても開口位置が分散したものは評価が高い。②トップライト面の梁の有無は室内視環境の評価には大きな影響を与えていない。③トッブライトを有する室内の用途により期待される雰囲気が異なるため,心理的効果が大きいトップライトの開口面積・位置・パターンは限定できなかった-等が得られた。
  • 石井 昭夫, 片山 忠久, 西田 勝, 榊原 典子, 堤 純一郎
    1989 年 15 巻 p. 317-328
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     通風は古来より最も利用されてきた対暑方法であり,クーラーの普及が著しい現在でも,わが国の住宅においては広く利用されている。住宅においての通風計画を行なうためには,計画的要因が通風の物理的特性に及ぼす影響を明らかにしておくことが重要である。本研究では,計画的要因としては主に住棟配置を取り上げる。住棟配置を変えた場合に,通風の躯動力である建物前後差圧がどうなるかを風洞実験により検討し,さらに,その結果を利用して,シミュレーション・モデルによって室内熱環境の推定を行ない,省エネルギー量の見積りを行なうことによって,通風の温熱効果を検討する。温熱効果については,実際の通風室内における在室者の温熱感覚に関する申告実験によっても検討を行なっている。また,建物まわりの風の入力ともいうべき地域風に関しては,わが国の都市の大半が海岸に発達しているという立地性から,代表的都市の風観測データを用いて海陸風の特性の解析を行なった。本研究で得られた知見を簡単にまとめると次のようになる。①通風室内における人体のいろいろな温熱感覚に対しては,風速そのものの影響が極めて大きい。②日本の大多数の都市では,夏の場合は,昼間は海から陸への風,夜間はその反対方向の風が吹くことが多く,通風を計画的に利用することが可能である。③湾岸都市の例では,各観測地点における昼間の卓越風向は海岸線に直角となる傾向が強くみられる。④片廊下型あるいは階段室型の集合住宅団地で通風を促進させるには,バルコニーを卓越風向に正対させ,容積率は小さくすると良い。⑤上記集合住宅団地を南向きにした場合の通風の熱的効果を,SET及び省エネルギー量により検討したところ,東京においては大きな効果がみられたが,特に夜間通風も併用するとその効果が著しい。また,容積率が小さい方が,熱的効果は大きい。
  • 神田 順, 田村 幸雄, 佐野 行雄, 藤井 邦雄, 崔 恒, 田村 哲郎, 大築 民夫
    1989 年 15 巻 p. 329-338
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究の主要目的は,長周期水平振動の知覚閾を定量的に把握し,知覚閾のバラツキを確率統計的に評価すること,およびこれらに基づいて超高層住宅の居住性を考慮した使用限界状態設計法に関する具体的手法を明らかにしようとするものである。昨年度の調査研究(1)では,長周期水平振動に関する既住研究の文献調査,23階建てSRC高層住宅における振動感覚予備調査,振動試験装置の開発,およぴ同試験装置による座位での正弦波知覚閾試験を行なった。本年度の研究(2)では,臥位での正弦波知覚閾試験とランダム応答波知覚閾試験を行ない,座位での正弦波知覚閾試験との比較検討を行なった。調査の結果次のことが明らかになった。(1)試験を行なった0.333Hz~2Hzの範囲では,周波数が高くなると知覚閾が低くなり,振動を感じ易くなるという点では,座位,臥位ともに同じ傾向が見られた。しかし,臥位の方が座位よりも振動を知覚しにくい。(2)座位の場合,正弦波とランダム応答波の比較を行なったところ,順方向ではランダム応答波では正弦波の試験で見られた周波数増加に伴う知覚閾の抵下はなく,ほぼ一定,もしくは周波数とともに増加の傾向が見られた。また,被験者が振動を知覚した時から,2波および5波前までさかのぼった評価時間でのPEAK値とRMS値を知覚閾に対応させたが,評価時間の違いによる差は見られなかった。(3)振動知覚閾を考慮した使用性評価の指標として,年間振動知覚確率に対応する信頼性指標βを用いて使用性のグレードを判断する手法を提案し,具体的な建物での適用例を示した。今後の主要課題としてこの振動知覚指標の適用性の幅広い検討の重要性を上げている。
  • 梅干野 晁, 何 江, 五嶋 智洋, 八木 澄夫, 浜口 典茂
    1989 年 15 巻 p. 339-354
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本報告は昨年度からの継続研究である。昨年度に得られた研究成果を踏まえ,次の3項目について研究を進めた。 I.植栽空間に形成される熱環境実態の解析 昨年度実測を行なった測定対象の中から,植栽空間として典型的と思われる4地点を選び,夏季の晴天日に主要な熱環境要素を実測した。3中空球温度,気温および風速を説明変数とした主成分分析結果より得られた植栽空間に形成される熱環境の位置付けを,主要な熱環境要素の実測結果より説明し,植栽空間に形成される熱環境の特徴を明確にした。 II.屋外熱環境計の実用化のための改良 昨年度の実測には筆者らが開発中の屋外熱環境計を用いた。本装置は主要な熱環境要素である,気温,風速,全日射量,平均放射温度を測定することを目的としたものであったが,昨年度の段階では,すべての気象条件下でそれらの要素を算出するまでには至っていなかった。そのため,3中空球温度そのものが熱環境の特徴を表現しているものとしてとらえ,3中空球温度を解析に用いた。本年度は装置の問題点を明確にし,①中空球の最適半径の決定,②4中空球を用いる装置の有効性,③本装置の精度および有効性,の3項目を中心にして改良を行ない本装置の実用化を計った。 III.熱画像を用いた建築外部空間の表面温度分布の解析とビデオの作成 植栽空間に形成される熱環境の特徴として表面温度分布があることが明らかとなった。このことから,赤外線放射カメラによる熱画像を用い,種々の構成材料の表面温度分布を比較検討し,植栽の表面温度分布の特徴を明らかにした。さらにこれらの結果を,建築家や建築学を専攻している学生が視覚的に理解できるように,建築外部空間における表面温度分布の日変化を表現した熱画像のビデオを作成した。
  • 住文化にみる近代化の足跡・体験的住居論
    道家 達将
    1989 年 15 巻 p. 3-13
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
  • 「あめりか屋」の住宅作品を通して
    内田 青蔵
    1989 年 15 巻 p. 15-28
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
  • 計画の立場からの日本住居現代史
    鈴木 成文
    1989 年 15 巻 p. 29-48
    発行日: 1989年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
feedback
Top