住宅総合研究財団研究年報
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伝統的木造建築の耐震性に関する調査研究
関東地震による鎌倉市内の被害調査
坂本 功大橋 好光河合 直人後藤 治渡辺 一正
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1994 年 20 巻 p. 339-348

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抄録

 木造建物の再評価に伴って,社寺などの伝統的な構法で建てられてきた建築物についても木造で造りたいという要望が高まっている。しかし,これらの建物は,耐力壁を主要な水平抵抗要素とする現在の考え方によれば,そのまま建設することは難しく,また,戦後続いた現場関係者(大工など)と構造研究者の乖離の結果,これらの建物の耐震性に関しては未解明のままとなっていた。本研究は,これらの問題に応える端緒となるもので,民家や社寺などの伝統的な建築物が,実際にどの程度の耐震性を有していたかを定量的に把握することを目的としている。具体的には,関東地震における鎌倉市内の地震被害を通して,伝統的木造建築の耐震性を調べた。まず,鎌倉市内の地盤に関する文献を収集して,軟弱地盤と言われる沖積層厚を整理した。その結果,鎌倉には,海岸や内陸に厚い沖積層があることが分かった。並行して,鎌倉市内の木造家屋の被害を,文献を中心に調べた。その結果,木造家屋の被害率はかなり高く,また,沖積層厚とかなりの相関があることが分かった。また,市内の社寺建築を可能な限り拾い出し,それらについてアンケート,文献調査,及び補足ヒヤリングを実施して,どういう建物がどのような被害を受けたかを調査した。その結果,(1)形式的には,寺院建築では仏堂系の建物が被害率がやや大きい,(2)屋根葺材の種類では,茅葺きや瓦葺きなど屋根の重いものに被害率が大きい,(3)建設年代による差は小さい,(4)壁率が大きいものの被害率は小さい,(5)木造家屋と同様に,沖積層が厚いほど被害率は大きい,などが分かった。また,木造家屋の被害率とかなりの相関があることも明らかになった。なお,本研究の成果の1つとして,これらの建物のデータシートが整っており,今後,個別の建物の検討が可能である。また,これを基に,振動解析などの手法を用いた構造解析を行なう予定である。

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© 1994 一般財団法人 住総研
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