住宅総合研究財団研究年報
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中国雲南少数民族の伝統的陸屋根斜面地民家と集落構成に関する調査研究
紅河上流の哈尼族と彝族の土掌房について
阿久井 喜孝滋賀 秀実吉田 正二八代 克彦顧 奇偉解 建才
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1996 年 22 巻 p. 123-132

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抄録

 中国雲南省には全国の少数民族の約半数に当たる28族がモザイク状に分布居住している。古代以来各々独特の伝統文化を継承し続けてきたが,住居形式についても例外でない。しかし長い年月の間に相互影響や分離と融合を繰り返してきたため,そのルーツや,ひいては日本の古代にも連なる発展と変容の系譜を明らかにする仕事は容易ではない。特に雲南省西南部は,中国-ビルマ-インド,中国-インドネシア半島を結ぶいわゆる南方シルクロードの交叉拠点として古代以来現代に到る迄異質文明のるつぼとも言える地域である。紅河上流域はベトナムと国境を接し,最近まで外国人に未解放の地域であったため情報や資科に極めて乏しく,系譜の研究にとってはいわぱ空白地帯でもあった。土掌房とは紅河上流域に居住する少数民族彝族の集落にみられる民族固有の伝統的居住様式で,棚田の斜面地や尾根筋に階段状の高密度集落を形成し日乾煉瓦の組積外壁の木造軸組構造で陸屋根と天窓をもつ半地下式の独特の住空間である。本研究は(1)現地実測調査を通して土掌房の実態を明らかにし既往研究の空白を埋め,民族学や伝統建築の系譜の解明に役立つ基礎的資料を作成提供する,(2)高密度住空間の在り方を求めて,特に現代的課題として重要と考えられる斜面地や半地下空間の開発と人間的環境保全の手法や智恵を学びとる,(3)民族相互の影響関係により融合,変容してきた形態の中でも伝承されてきた各民族文化の固有性を明らかにすること,等を目的として行なったものである。土掌房の変種の一つと考えられる陸屋根に草葺きの小屋を載せた草頂房についても併せて詳しく調査したが,哈尼族を中心とするこの地域独特の民家は,上記(3)の視点で外見上類似の民家でも生活様式上各々の民族的固有性を保持していることを明らかにすることができた。それにより,北方系は組積造土間式生活,南方系は高床(干欄)式床座型生活と単純に分けることは誤りであることも理解できた。

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© 1996 一般財団法人 住総研
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