抄録
本研究は,アジアの第三世界諸国都市部の低所得者層地区において展開されている,主としてNG0・CB0を主体としたいくつかの居住者主体の住環境改善事業を対象とし,その事業にかかわる専門家・行政・居住者のリーダーなどといった様々なレベルのアクター(事業にかかわる人・組織)の役割を明らかにし,ある地域的・文化的文脈下の住環境改善事業におけるより望ましいアククーの役割配置の構造を検討し,国を超えた地域間の技術・経験交流の可能性を探ることを目的としている。調査は,フィリピンの「サプスパ低価格住宅建設事業」,「コミュニティ低当融資事業」,パキスタンの「オランギ低価格衛生設備事業」,タイの「都市コミュニティ開発事務局融資事業」,スリランカの「まちづくり行動計画」の5つの事業について,主にインタビューを中心に行なった。本稿では,まずアジア大都市における居住政策の流れを概観した後,調査によって得られた情報をもとに,5つの対象事例の事業プロセスとそこにかかわるアクターの役割を分析した。その結果,住環境改善のための融資事業や規制緩和をはかるGO(政府組縮)の役割・専門家集団として政府と住民とを仲介し,居住者の組織化を担うNGO(非政府組織)の役割・住環境改善事業の主体として,また住民相互を結びつける母体としてのCBO(居住者組織)の役割といった,事業にかかわる基本的なアクター三者の役割の特徴が明らかになった。本研究で試みたような,住環境改善にかかわるアクターの役割を,社会経済的・地域的文脈に即して明確に整理・分析しておくことは,第三世界の住環境改善事業の相互経験交流において重要である。