住宅総合研究財団研究年報
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近代ベトナムにおける住宅様式に関する基礎的研究
村松 伸大嶋 信道大田 省一ホアン ダン・タイヴィエト ファム・ディン
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1998 年 24 巻 p. 87-96

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抄録
 本研究は,ベトナム・ハノイを調査対象とし,近代以降の都市住宅の成立・展開の様子を明らかにすること,及びそれが現在どのように使われているかを記述して現状の問題点を明らかにすることを目的としている。宗主国からの「近代」と街屋の「伝統居住」という図式を乗り越え,街屋を動態的に考察してひとつの地区の住宅が成立していく様子を明らかにすることを目指している。ベトナム人の都市居住の変化がもたらした都市構造の変化に着目し,植民地下での都市住宅の変化を検証する。本研究では,街屋地区でのベトナム人都市居住の醸成,フランス人による近代の導入という2方向からの影響が並行して起こり,新ベトナム人地区の都市居住を創り出した可能性に着目し,都市住宅の近代の要素を,旧来市街地の街屋の変化,フランス人住宅の発生・展開,新ベトナム人地区の開発の3方向から調査し,都市住宅と都市構造の関わりを考察した。調査は地図史料等で都市構造の変遷を追うと共に,各時期の住戸の実測調査を中心に行なった。その結果,現在みられるハノイの街屋の形式は開港後に成立したものであり,短冊状の区画を持った定型的な街屋は,市街地の面的開発の中で発生し流通するようになったこと,宗主国の要素と現地の要素の間には交通があり,時代の要請に応えた住宅様式がその中から開発されていったことがわかった。さらに近代を通して柔軟に変容してきた都市住宅も,革命により住宅形式の固定が起こると改変を受けることで時代に対応し続けようとしたが,それも限界に達していることが判明した。都市住宅への要求が絶えず変動し未だに完結していないことを明らかにし,そのことを再確認することが,現代のハノイの実状を捉えることとなった。
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© 1998 一般財団法人 住総研
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