抄録
『院宮及私第図』と『諸家亭宅寝殿考証』は,平安鎌倉時代の公家邸を中心に指図・関連記事を収集した資料集である。本研究ではこれら二書について考察し,主に以下の結論を得た。まず,前者は裏松固禅の編著だが,後者は再検討の必要がある。『院宮及私第図』の成立は『大内裏図考証』と同時期である。邸の復元図も掲載されるが,その主目的はあくまで指図の資料集という点にある。それを反映して図配置の方針が不明確である。そして固禅の住宅史研究には善本収集の制約という限界があったが,絵巻物の選択にあたっては描写される建築の時期や内容が吟味されていた。