2013 年 39 巻 p. 85-96
本研究は,「奥」という概念の再考を動機とし,土間や外部との接点および家族団欒の場と,台所作業場の平面的な関係性を通して,近世末から近代への移行期の夫人の居場所の変遷を捉えることを目的とする。幕末期の旗本夫人・井関隆子による日記を分析し,家族個人間のプライバシーの時代的萌芽を指摘した。墨田区民家においては,台所の空間的な「奥」を深化させる一方,家事労働軽減が目指されても,家庭の中心的な場に一体化されることはなかった。それにより,中廊下型でも居間中心型でもない「江戸期農家の土間・台所の縮小再編型」という特有の住居平面構成を持ち,夫人の新たな居場所が形成されたと見ることのできる可能性を示した。