獣医疫学雑誌
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原著
タンザニア国アルーシャのビール・バーで提供される牛焼き肉喫食によるカンピロバクター症のリスク評価
蒔田 浩平Edgar MAHUNDI豊巻 治也石原 加奈子Paul SANKAEliona J KAAYADelia GRACELusato R KURWIJILA
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2017 年 21 巻 1 号 p. 55-64

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抄録

本研究は,タンザニア国アルーシャ市のビール・バーで販売されている「ニャマチョマ」と呼ばれる焼き牛肉の,カンピロバクター交差汚染によるリスクを評価することを目的として実施された。

2010年に,生牛肉と焼き牛肉における好熱性カンピロバクターの汚染率と最確数推定のため,層化無作為抽出した精肉店30件と焼き肉を提供するビール・バー30件を訪問した。さらに,カンピロバクターは一般的に家禽類でより多く保菌されているので,交差汚染の状態を観察するため焼き鶏肉を提供するバー10件を有意抽出して調査した。各精肉店とバーで一点の肉を収集し,質問票と直接観察により,販売ならびに衛生状況を評価した。リスクモデルを統計ソフトRで作成し,モンテカルロシミュレーションにより,アルーシャにおけるバーの客と成人男性集団における疾病発生率を推定した。

フィールド調査では,唯一焼き鶏肉サンプル一点からCampylobacter coli が検出され,その最確数は0.37/g(95% CI : 0.12—1.08)であった。アルーシャ市全体で,利用客における一日当たりカンピロバクター症発生数は0.15人(95% CI : 0.02—0.95)と推定された。利用客およびアルーシャ市成人男性における年間発生率は,千人当たりそれぞれ12.4人(95% CI : 1.2—83.6)と0.6人(95% CI : 0.06—4.0)と推定された。最も結果に影響を与える因子は焼き牛肉における好熱性カンピロバクター汚染率であり,次に最確数であった。多くのバー経営者(26/40, 65%)は異なる動物種由来の肉を提供しており,鶏肉と牛肉間での交差汚染は起こりやすい状況であった。ほぼ半数(18/39, 46%)の経営者は生肉と焼き肉に同じ包丁を使用していた。経営者の半数(20/40, 50%)が調理衛生研修を受講していたにも関わらず,研修の受講歴と交差汚染の主な原因と考えられる生と焼き肉の包丁の使い分けの実践とは統計学的関連性がなかった(x2=0.22, df=1, p=0.6)。

結論として,焼き牛肉喫食によるカンピロバクター症は公衆衛生学的重要性が低いことが分かった。しかしながら,他の菌種のリスクを考えると,ビール・バーの食品による食中毒リスクをさらに低減するには,調理衛生研修内容の改善が望まれる。

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