獣医疫学雑誌
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総説
蜜蜂に発生する真菌性感染症と対策:チョーク病を中心に
花房 泰子小林 創太
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2020 年 24 巻 2 号 p. 101-112

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抄録

チョーク病は,セイヨウミツバチ(Apis mellifera)の幼虫における真菌感染症であり,我が国では届出伝染病に指定されている。病因であるAscosphaera apisA. apis)は蜜蜂の生活圏内に常在し,極めて高い耐乾性を有する。我が国では本病の治療・予防のために承認されている動物用医薬品はなく,採蜜期に使用可能な消毒法も限られている。これらのことから,本病の防除のためには発生に関与する要因を把握して対策を行い,巣箱内のA. apisの数を低く保つことが重要である。蜜蜂飼育者は暑熱ストレス回避および十分な飼料源となる植物を確保する目的で,夏に本州から北海道へ蜜蜂を転飼させているが,疫学的に本病の多くは夏の北海道で摘発される。実験的にも低温感作と発症に関連が認められており,転飼を含む蜂群の低温環境への曝露は本病の発生リスク要因であると考えられる。A. apisの同定には形態観察法が有用である。しかしながら,形態だけではその他のAscosphaera属真菌との鑑別がしばしば困難なことがあり,分子生物学的解析を併用することが望ましい。本病を含む蜜蜂の感染症の対策構築を阻む要素は数多く存在しており,我が国の養蜂振興および家畜衛生の向上という観点から,それに資する疫学的研究の推進が望まれる。

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