獣医疫学雑誌
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原著
日本のCSF発生に伴う被害額の推定
澤井 宏太郎早山 陽子清水 友美子村藤 義訓山本 健久
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2020 年 24 巻 2 号 p. 113-121

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抄録

2018年に我が国において26年ぶりとなるCSFが発生し,野生イノシシと豚飼養農場で感染が拡大した。CSFが発生した際には,法律に基づき発生農場の飼養豚が全頭殺処分されるため,その流行は養豚産業に大きな被害を与えることになる。そこで,本研究では2018年の初発事例から2019年9月1日までの感染状況に基づき,野生イノシシの感染拡大が同心円状に起こると仮定した感染拡大シミュレーションにより,豚飼養農場でのCSF感染を推測し,日本におけるCSFの流行に伴う経済的損失を推定した。推定された被害額としては,野生イノシシ初発事例からの感染範囲が半径500kmに達した場合,行政の負担となる殺処分手当金や人件費の被害は計751億円,発生農場での肥育豚の生産が停止することによる生産額の減少は1,402億円に達した。本研究では2019年10月末から開始された飼養豚へのワクチン接種の影響を考慮していないため,推定された金額は過大評価となっている。疾病流行中においては入手可能なデータが限られており,また,将来の対策の追加などを考慮できないため,結果の信頼性に一定の制約が生じる。しかし,疾病の流行が続く中で,重要な政策決定に先立ち,こうした研究結果を検討材料として提供することの意義は大きいと考えられる。本研究の方法や結果は,今後,流行期間中に感染症の拡大予測や費用推定を行う際に活用することができるだろう。

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© 2020 獣医疫学会
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