2023 年 27 巻 1 号 p. 9-16
抗菌薬に耐性を有する薬剤耐性菌の出現と蔓延の問題が,世界的に深刻な規模で進行している。薬剤耐性菌蔓延の拡大に伴う社会への影響は甚大なものになることが懸念されている。WHOは薬剤耐性菌に対する人─動物─環境による包括的な対策として,ワンヘルスによる取り組みを提唱するとともに各国に国家行動計画の策定を求めており,我が国においてもアクションプランが制定され対策が進んでいる。しかしながら,環境を対象とした薬剤耐性菌については不明なことも多く,病院等の医療機関に由来する排水を対象とした研究事例は,世界的にみても未だ知見が限られているのが現状である。薬剤耐性菌による環境汚染問題の実態を評価し,その蔓延抑制・低減に向けた取り組みを行うことは,持続可能な人類の繁栄と地球環境の保全を両立させる上でも重要な課題である。本稿では,近年明らかになりつつある医療機関に由来する排水と,下水処理場,河川を対象に,抗菌薬及び薬剤耐性菌の実態と環境リスク低減対策としての浄化処理についての知見をまとめ,今後の環境リスク評価・リスク管理の展望について概説する。