2010 年 63 巻 3 号 p. 211-214
6歳齢,雌の雑種が,左耳後背部の腫脹を主訴に来院した.身体一般検査の結果では左外耳孔が認められなかった.CT検査およびMRI検査では耳道内および鼓室内に内容物が充満しており,その細胞診ではケラチンの残屑がみられただけであった.左耳道は囊胞状に腫脹し,周辺組織を圧迫していたことから,全耳道切除術および鼓室胞切開術を行った.術中,耳道内および鼓室胞内には,黄緑色のチーズ状の物質が占拠していた.病理組織学的検査では,耳道内の皮膚は褶曲状を形成し,その内側に耳垢が集積していた.これによって画像検査および術中にみられた占拠物質は,残屑ケラチンであることが判明した.ケラチンの残屑に対する二次的炎症が散見されたが,耳垢から細菌は検出されなかった.以上の結果から,本症例は先天性耳道閉鎖を疑った.本症例は術後順調に経過している.