2016 年 69 巻 1 号 p. 47-51
北海道におけるエゾシカ検査モデルにおいて,獣医師による解体時検査の実施されたエゾシカ368例のうち8例の肺に異常が確認された.このうち7例では,肉眼的に孤在性から多発性の硬結感のある結節性病変が認められ,組織学的にはアスペルギルス様真菌を伴う乾酪化肉芽腫もしくは乾酪壊死巣が認められた.うち3例については分子生物学的にAspergillus fumigatusと同定された.以上から,7例は肺アスペルギルス症と診断された.シカの肺病変に占める割合の高さと病変の重篤化の点から,アスペルギルス症はシカの肺における重要な疾患であると考えられた.容易に触知できる病変を形成するため,解体時検査における触診検査が重要であり,個体の健康状態の把握のためにも適切な内臓検査の実施が不可欠であると考えられる.