2016 年 69 巻 6 号 p. 323-328
4カ月齢の黒毛和種が流涎,上顎両側のびらん及び舌尖部と舌腹側部潰瘍を呈し,口蹄疫が疑われた.写真診断と疫学的状況から口蹄疫の可能性はきわめて低いとされたが,2週間の経過観察期間中に4〜7カ月齢の同居牛10頭が発症し口腔内に発赤,紅斑,丘疹,びらん及び潰瘍といった多様な病変が認められた.そこでウイルス学的検査により病因解明を試みた.発症牛8頭の口腔内病変部スワブからPCRによりパラポックスウイルス遺伝子が検出された.PCR増幅産物の塩基配列はすべて同一であり,国内や海外の牛丘疹性口炎ウイルス分離株と遺伝学的に近縁であった.さらに血清中の抗牛丘疹性口炎ウイルス抗体が陽転した個体を認めた.以上の成績から本症例を多様な病変を呈した牛丘疹性口炎と診断した.