1983 年 36 巻 9 号 p. 521-524
昭和56年4月に, 青森県南部の一酪農家で牛5頭にイチイ中毒が発生した. それは, 剪定後放置したイチイの枝葉を採食して数時間後に急性に発症したものである. 重症の2例は約15-18時間後に死亡し, 中ないし軽症の3例は約24時間後に回復した. 発症例に共通した臨床所見は, 元気不良, 食欲減退ないしは廃絶, 反鋼減少ないしは停止などで, そのほか四肢の震戦, 呼吸浅速, 心音不正などの所見が認められた. 死亡例2例の剖検所見では, 第一胃から第三胃にかけて胃内容中から, 半ば咀噛されたイチイの枝葉が大量に検出されたことが特徴であった, また, 2例の第一胃胃汁からアルカロイドが検出された. これらの結果から, 本症例はイチイ中毒と診断された, また, その死因は体内に吸収されたイチイ毒素 (Taxin) により, 呼吸障害あるいは循環障害をもたらしたためと考えられた.