日本獣医師会雑誌
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肝障害牛1例の臨床生化学的所見
野呂 明弘糸井 浩木暮 幸博富田 孝板垣 光明樋口 明宏吉田 晶徳尾内 宗次
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1990 年 43 巻 3 号 p. 181-184

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抄録

野外で発症した肝障害牛に対し, 発症前を中心に約1年間の経時的な臨床生化学所見の観察を実施し, 発症後は治療に伴う変化を観察した. 供試牛は肝障害発症時は18ヵ月齢のホルスタイン種乳用育成牛であり, おもな臨床所見は黄疸, タール状下痢, 元気消失等であった. 発症牛の血液所見ではGOT, γ-GTP, ALP活性値とビリルビン濃度は発症時に著しい上昇がみられたが, GOT活性値, ビリルビン濃度は発症直後から急速に減少した. シアル酸濃度は発症後に増加し, 臨床症状が回復するまでその高値が維持した. 発症牛の血清過酸化脂質は発症10カ月前に30nmol/mlと著しい高値がみられたが, 発症8ヵ月前には減少した. また, 対照牛群の血清過酸化脂質は平均値で1~3nmol/mlであり, 観察期間中大きな変動は認あられなかった. 発症牛の血清総脂肪酸組成は対照牛群に比較して, 発症6ヵ月前から発症時にかけてミリスチン酸, パルミチン酸の増加がみられ, ステアリン酸の低下が認められた. これらの結果から, 今回の肝障害牛の症例では血清過酸化脂質, 脂肪酸組成の変動から, 発症時以前に生体内に代謝異常が存在していたことが推察された.

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