抄録
末梢血ミクロフイラリア(mf)陽性の犬糸状虫寄生犬にミルベマイシンDを経口投与した後, 8例が犬糸状虫性血色素尿症(caval symdrome)を発症した。発症は投薬3~24時間後に確認され, 発症中に剖検した2例を除き, 無処置のままで21~117時間後に回復した。発症時の共通所見は, 収縮期心内雑音, 陽性頸静脈拍動, 不整脈, 心拍数減少, 血圧低下, 三尖弁口部位への糸状虫エコー出現, 心室性または心房性の期外収縮, 末梢血mf数減少, 血清酵素活性および血漿ヘモグロビン濃度の上昇, および血色素尿であった。右心系の成虫寄生数は10~39隻, 体重1kg当たりの寄生数は1.00~8.67であり, 必ずしも多数寄生例のみではなかった。血清および赤血球膜の脂質所見は慢性重症例のそれらに類似しており, 発症時すでに赤血球には易溶血性素質が形成されていることが示唆された。これらの発症例では, ミルベマイシンD投与に伴う心機能の低下が, 糸状虫の肺動脈から大静脈方向への移動に関与すると考えられた。