1989 年 51 巻 5 号 p. 935-940
動物園の飼育動物, ならびに動物園周辺で保護もしくは捕獲されたネコ, ネズミ, ドバトについて, ラテックス凝集反応によるトキソプラズマ(Tp)抗体保有調査を行った. 調査対象である動物園動物360個体のうちTp抗体価64倍以上を示したものは, ホ乳類10目28科中5%(9/181), 鳥類15目22科中6.7%(12/179)であった. ネコ43個体, ネズミ55個体, ハト82個体の陽性率は各々, 9.3%, 0%, 4.9%であった. これらの他の報告に比べて低い抗体保有率は, 動物園施設の衛生的改善や飼育動物中に占める野生捕獲動物数の減少によるものと考えられた. しかし, ベニイロフラミンゴやチンパンジーに認められた高い抗体価(1:8192と1:1024)と他の動物園内繁殖動物7個体にみられた64倍から512倍の抗体保有, さらに園内で捕獲されたネコ4個体における128倍から512倍の抗体価の存在から, 低率ではあるが動物園内におけるTp感染の成立が疑われた. このことから, 野生動物の取扱い, ならびにネコによる動物舎周辺の土壌汚染については, 動物の健康管理面のみならず公衆衛生面からも更に注意を続ける必要が示唆された.