抄録
高速増殖炉内燃料被覆管の候補材料として研究開発が行われている酸化物分散強化(ODS)型9Crフェライト系耐熱鋼について,内部に生成するイットリア系酸化物の分散状態を電子線トモグラフィーにより3次元的に評価した.酸化物は,高密度な領域と低密度な領域が鋼管の押出し方向と平行になるように積層した分布を持っていた.それぞれの領域で,酸化物による変形への抵抗力を粒径や粒子間距離などから算出すると,700℃において,高密度領域では232~278MPa,低密度領域では154~184MPaであった.さらに,クリープ特性を評価したところ,約140MPaでクリープ変形機構の遷移が認められた.このしきい値は,低密度領域の酸化物による変形の抵抗力におおよそ一致している.すなわち,低密度に酸化物が分散した領域において転位の運動が速く,このことがODS鋼の高温強度や変形機構に強く影響を及ぼしていると示唆された.