本稿は超短パルスレーザの原理から最近の研究動向について、可視化などにフェムト秒レーザを用いる人を対象にまとめたものである。フェムト秒レーザは、市販レベルのものでスイッチを入れれば動き、小型なものも増えてきて、可視化手法の中でも広く使われるようになっている。ただし、簡単に使えるようになった反面、その原理や光としての可能性を十分使いきれないことも起きているように思える。この状況を打開するためには、少なくともフェムト秒レーザの原理的な部分は理解しておく必要があるが、それをある程度定量性を持って、なおかつ図表などで結果が分かりやすい形で示している。また、以前は発振器が最も短いパルスになるようなシステムであったが、現在ではより比較的長いパルスからの圧縮、時間レンズ、直流光からの変調による短パルス化など多くのことが使われている。これについても原理になるべく戻れる形で解説を行っている。
著者グループは,マイクロ衝撃波を再生組織細胞に有効なマイクロスケールの刺激として使用するため,フェムト秒レーザ誘起衝撃波によって生成されるマイクロ衝撃波について,その基礎的現象を研究してきてた.これまで,フェムト秒レーザの光学的集束によって液中でマイクロ衝撃波の生成を確認し,その波面構造を調べるために高速度カメラを用いた可視化を行い,集束点(プラズマ発光)周辺に圧縮波となるマイクロ衝撃波や気泡挙動の観察を行ってきている.本稿では,これまで著者グループが行ってきた研究の一部を紹介した後,フェムト秒レーザ誘起水中衝撃波の初生をともなう衝撃波面伝播挙動観察のための可視化手法とその画像から得られる情報などについて紹介する.
高速イメージングは,高速現象の理解に不可欠な技術として広く自然科学の発展に貢献してきた.電気的な高速度カメラでは捉えられない超高速現象の計測においては,超短パルスレーザを用いた光学的な撮影法が重要な役割を果たしてきた.そして現在,フェムト秒から秒のあらゆる時間分解能の要求を満たすことが可能になった.しかしながら,電気的な高速度カメラには時間分解能,光学的な撮影法にはフレーム数の制約があり,フェムト秒から秒の広範な時間スケールで続く現象をシングルショットで計測することは依然として困難である.本稿では,我々が開発を進めてきた,全光学的な超短パルス操作に基づくマルチ時間スケールの超高速シングルショット撮影技術について解説する.撮影結果として,ガラスの超短パルスレーザ加工現象を,ピコ秒,ナノ秒,ミリ秒という複数の時間スケール(~10−100 ps,~1−10 ns,~1−100 ms)でシングルショット計測した結果を紹介する.
本稿では,フェムト秒レーザを窒素分子に対して集光して得られる発光を,流体計測のタグとして使用するFemtosecond Laser Electronic Excitation Tagging (FLEET)を紹介する.FLEETは,空気中の窒素分子を利用することから,レーザ系と撮像系のみで流れ場の情報を取得できる.渦の中心や物体の後流,膨張波や衝撃波などによる加減速の大きい流れ場等,これまでParticle Image Velocimetry (PIV)が苦手としてきた流れ場を良好に計測できる.本稿では,まず,FLEETにおける窒素分子の発光の概略を説明する.次に,FLEETによる速度計測例として,不足膨張噴流及び大型超音速風洞での一様流計測の結果を紹介する.最後に,FLEETの発光寿命を用いた密度計測法について,その原理と不足膨張噴流に対する計測例を紹介する.