抄録
黒毛和種集団における枝肉形質の遺伝率推定に必要な標本サイズについて検討した。材料は, 1989~1993年の問に宮崎県内で生産かつ肥育された黒毛和種去勢牛19, 170頭から任意に抽出した母集団とした5, 000頭の枝肉格付成績を用いた。本サイズは100, 200, 400, 600, 800, 1, 000, 1, 500, 2, 000及び3, 000の9段階とし, 各段階ごとに10回つつ乱数表によって標本抽出し, その都度遺伝率と標準誤差を推定し, それぞれ10回毎の平均を求めた。遺伝率と標準誤差の推定はHendersonのMethod IIIとHarveyのLSMLMWによった。その結果, 枝肉形質によって若干異なるが, (1) 標本サイズが100~400では遺伝率推定値のレンジが大きいこと, (2) レンジが0.2より小さくなるには標本サイズが800~1, 000必要であること, (3) 遺伝率平均推定値とその標準誤差は標本数が大きくなるにつれて漸減し, 比較的安定した値をとるのは標本サイズが400以上であることなどが明らかになった。これらの結果を総合し, 遺伝率が繁殖雌牛の育種価評価や遺伝的改良量の予測に重要なパラメータであることを考慮すると, 黒毛和種集団における枝肉形質の遺伝率推定には800~1, 000頭の標本サイズが必要であり, しかも集団の遺伝率は数回以上試行してえられた推定値の平均値を充てることが望ましいと考えられ, 今後標本抽出条件などを変えてさらに検討する必要がある。