抄録
凍結試料の表面切削,顕微二次イオン質量分析,および走査電子顕微鏡観察を連続的に実行できる複合的な低温分析システム(cryo-TOF-SIMS/SEM)を開発した。これまで水溶性成分の定量はバルク分析が主体であり,細胞単位での偏在状態を評価することは困難であった。当該システムによって,生体試料中に存在する各種成分の位置と化学構造情報を凍結状態のまま評価することが可能となった。急速凍結したイチョウ試料の板目連続切片を用いてクロマトグラフィー測定によるコニフェリンおよびスクロースの定量分析を行い,樹皮から木部までの量的分布を評価した。続いて木口面のcryo-TOF-SIMS測定およびcryo-SEM観察を行い,コニフェリンあるいはスクロース由来と考えられる二次イオンのマッピングを試みた。結果より,当該イオンが師部組織の細胞内,木部の仮道管細胞内,あるいは放射組織に偏在していることが可視化された。