2023 年 69 巻 1 号 p. 49-55
アントラキノン(AQ)は1972年からアルカリ蒸解の添加剤として注目されてきたが,国際がん研究機関は2012年に,AQは変異原性あるいは発がん性の可能性があると報告した。製紙資源としてのタケの活用を拡大し,タケパルプの安全かつ効率的な蒸解方法を見出すために,本研究では,変異原性を示さないことが報告されている2-メチルアントラキノン(2-MAQ)について,タケのソーダ蒸解における2-MAQのパルプ収率やカッパー価に与える影響およびパルプに残留する2-MAQの量について明らかにした。2-MAQ添加率0.06%(対タケ重量)の蒸解では,無添加の蒸解の場合と比べてカッパー価17におけるパルプ収率は3.0%向上した。また,未漂白パルプ1kgに残留する2-MAQの量は,0.02–0.11mgと非常に少なかった。そのため,ソーダ・2-MAQパルプを用いて生産される食品包装用紙から食品へ移行する2-MAQの量はわずかであり,発癌性を引き起こさない可能性が高いことが示唆された。