2025 年 71 巻 1 号 p. 17-26
筆者らはこれまで,北日本の山形県庄内地方において,サクラてんぐ巣病の被害発生状況をソメイヨシノとオオヤマザクラに関して調査し,有病枝を切り落とす手入れをしていないソメイヨシノの有病率は高く,オオヤマザクラの有病率が低いことを明らかにした。さらに北方の北海道において,函館・札幌に多いソメイヨシノ,全地域に多いオオヤマザクラのサクラてんぐ巣病の発生状況を調査した。函館におけるソメイヨシノでは有病率が78%であり,山形県庄内地方における手入れをしていない立木と同様に高い値であった。北海道全地域に植栽されているオオヤマザクラについても,ソメイヨシノと同様に手入れがされていない立木が多い函館で53%と高く,管理体制が整っている札幌は0%,旭川では5%の有病率であり,手入れの有無が有病率を左右していることが示唆された。サクラ類はサクラてんぐ巣病の進行とともに樹幹折損や枝抜け,樹幹の変形が進む。これらの症状が顕著になる大径・老齢化する時期の胸高直径はソメイヨシノが40 cm以上,オオヤマザクラは30 cm以上と考えられた。この時の採材可能と推定された材積は丸太と枝条合計でソメイヨシノ0.40 m3,オオヤマザクラ0.28 m3で同じサイズのスギとほぼ同程度の材積であり,サクラ類の丸太はフローリング材等,枝条は燻製用チップやボイラー燃料として活用できることが期待される。