抄録
本稿の目的は,ダルク(DARC:Drug Addiction Rehabilitation Center)
在所者・スタッフによって語られる薬物依存からの回復について,ダルク
のスローガンとなっている「今日一日」を焦点にして考察を試みることで
ある.
ここで使用されているデータはX/Yダルクにおいてのフィールドワー
クによって得られたものである.Xダルクは大都市圏に位置し,比較的古
くに創設されたYダルクも大都市圏に位置し,近年に創設された筆者
は共同研究の一環として2011年4月からX/Yダルクにおいてフィー
ルドワークを行っている.
分析の結果「今日一日」は薬物依存からの回復を語る上で重要な「時
間の感覚」 として存在していることがわかった.具体的に言えば, 1) 「今
日一日」 のもとで生活することにより「過去」や「未来」に対する不安
を軽減し,クスリを止めている「現在」に繋がったこと, 2) その「現在」
の積み重ねにより「過去」から「現在」,「現在」から「未来」という時間
の流れを取り戻したこと, 3) ダルクという空間外でも「今日一日」のも
とで回復の語りを展開する可能性を持つこと,以上の3点を明らかにした.