抄録
本稿では,まず,福祉社会学会の創立の経緯を振り返り,さらに福祉社
会学の性格について議論する.そして福祉社会学の歴史を福祉社会学会の
創立以前に遡り,さらに現在の学会活動について言及する. 実際,学会員
の著作は,多様な方向に広がっているが(第三セクター,家族領域,福祉国家,
格差など),学会誌の所収論文は,ケア論,政策研究に偏っている.
本稿の大きな目的は,学会創立10周年記念事業として出版された『福
祉社会学ハンドブック』について検討を加えることにある.同書は,三部
構成となっている.第I部では,福祉社会学の枠組みを示している.具体
的には,その原理,方法を明らかにすることになる.第Ⅱ部では,福祉社
会学の諸領域について,ミクロ,マクロ,及びライフコース,ライフステー
ジ,さらに差別,階層などの視点から検討を加える.第Ⅲ部では,政策論,
福祉実践に焦点を合わせる.
最後に,筆者が考える五つのアジェンダを示し,今後の方向性を指摘す
る.第一としては,福祉社会学における「生活の質」へのアプローチの必
要性があり,第二には,社会構想のあり方への着目がある,第三として,
政策問題への取り組み,価値判断の意義を挙げることができ,第四に,メ
タ政策基準として,格差是正,及び関係性の側面への注目が不可欠になる.
そして,第五として,社会システム論の福祉社会学への適用に関する問題
設定を行うことになる.