抄録
本稿の目的は福祉現象に見られる贈与の経験に着目し,社会学はそれを
いかにして豊韓化することができるかを考察することである.特に障害者
介護や高齢者介護の実態を取り上げ,制度に収まりきらない現実の豊かさ
を記述する.
贈与とは量と価値の不均等な資源の移転である.贈与においては様々な
意味が派生する.それに伴って,人びとのあいだに関係性が生じ, ときに
関係の優劣を生む福祉において資源の移転が贈与として実施されると,
資源の提供者による支配の形式をとることが多い.そのため,福祉におい
ては資源の提供にお金を払い,関係を対等にする,交換の原理が採用され
ているたとえば,現代日本の介護保険制度は「措置から契約へ」という
スローガンを語い,市場の交換原理に似た制度を構築している.
しかし,交換の原理による福祉は,人間が人間に出会うときに抱く様々
な経験や感情を排除するこれは人間の生を励ます仕事である福祉にとっ
て相応しいことだとはいえない.福祉は贈与の性格を捨ててしまってはな
らない.しかし,贈与を他者に強要することは贈与本来のあり方に反する
では, どのようにすれば贈与の福祉を経験することができるか.
本稿では第lに社会調査における参与観察の方法を取り上げ,このこと
を考える.特に「生の技法としての参与観察」と呼び,その葛藤の過程に
着目する.参与観察は調査者が支援と調査に引き裂かれるがゆえに,その
役割を超えた出会いを可能にするからである.
第2に役割を超えた出会いによって贈与と観察される場面が生まれる.
これを本稿では相互贈与と呼んでいる.福祉においては相互贈与の性格を
肯定的に語る必要があることを述べる.最後に,その場に深くかかわれば
かかわるほど,参与観察は遊びの性格を持つことを指摘し「遊びとして
の参与観察」の可能性を論じる.