本研究の目的は,介護における職業教育訓練(Vocational Education and
Training 以下,VET と表記)の差異による,介護福祉士の職務認識の違いを
明らかにすることである.介護の専門性に関する研究は幅広く行われているが,
人材育成の観点から介護のVET を扱った実証研究は蓄積が少ない.そのため,
現行のVET 制度がどのような職業的レリバンスを持つかを明らかにする必要
がある.介護福祉士は「養成施設ルート」と「実務経験ルート」の二つの資格
取得ルートがあり,また事業所内外のVET は統一的ではなく多様である.そ
のため,厚生労働省が定める教育カリキュラムの基礎概念である「尊厳と自立」
を参照軸とし,介護福祉士が受けたVET によって職務認識がどのように異な
るかどうか検証する.
本研究では,養成施設ルート出身者と実務経験ルート出身者に対しインタビ
ュー調査を行った.調査の結果,養成施設ルート出身者とVET を手厚く受け
た実務経験ルート出身者は尊厳と自立概念を重視し,VET をあまり受けていな
い実務経験ルート出身者は時間効率を優先する傾向があることが分かった.ま
た,事業所の運営等に問題がある場合,前二者は職務継続意欲の減退が見られ
たが,後者は問題を消極的にであれ容認する傾向が見られた.今後は実際の職
務遂行のあり方や教育カリキュラム自体の妥当性を問い,職業的レリバンスの
内実をより明らかにすることが課題となる.